ロシアのウクライナ侵略を擁護する反グローバリストの論理

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まとめから。

  1. ウクライナ問題の本質は、グローバリズムと反グローバリズムの対立(国際法が遵守されない世界ではグローバリズムは成立し得ない)。
  2. 東アジアは火薬庫であり、ロシアによるウクライナ侵略は対岸の火事ではない。対応を間違えると、今日のウクライナは、明日の日本。
  3. 「国際法を無視し、軍事力によって現状を変更しようとする行動に、どのように対処すべきか?」が、日本の国益につながる議論すべき論点。

ロシアによるウクライナ侵略から、1ヶ月が経ちました。ほとんどの良識ある日本人は、ロシアの軍事侵略を非難しています。しかし、反グローバリズムを主張する人を中心に、ロシア擁護の発言も目立ちます。

プーチンが信奉する「ユーラシア主義」に大きな影響を与えたイワン・イリインの思想は、自由や民主主義の価値を否定する反グローバリズムを土台としています。

プーチン自身もあらゆる機会にグローバリズムを批判する、反グローバリストの旗手なのです。

たまに、「アメリカも同じようなことをイラクでやったじゃないか」という人がいますが、

しかし、2003年、米英連合軍のイラクへの侵攻は、イラク側の大量破壊兵器に関する国連決議違反(査察拒否)の結果なのです。アメリカは、もう少し慎重に進めた方が良かったと思いますが、かといって、違反は、イラクの方なのです。アメリカが、イラクを自分の領土に併合したいとしたわけでもありません。

一方、今回のロシアは、完全な国際法無視。もともと、ウクライナとロシアは、(日本がずっと主権を主張し続けている北方領土と違って、)クリミア半島をめぐって対立していたわけではありません。

クリミア半島の主権は、ロシア・ウクライナ友好協力条約(1997年5月署名)において、ウクライナにあると、ロシアは認めていました(1999年3月にロシア上院で批准されて確定)。お互いの主張が食い違った結果、武力侵攻に至ったのではないのです。

ロシアを擁護する人たち

国会に議席を有する政党の中で唯一、れいわ新撰組は、3月1日の「ウクライナ侵略を非難する決議」に反対しました。その立場は、つぎのようなものです。

日本の行うべきは、ロシアとウクライナどちらの側にも立たず、あくまで中立の立場から今回の戦争の即時停戦を呼びかけ和平交渉のテーブルを提供することである。国際社会の多くの国家がその努力を行わない限り、戦争は終結しない。

【談話】「ゼレンスキー大統領演説を受けて」れいわ新選組(2022年3月23日)

そもそも、ロシアは、通常の外交交渉では受け入れるはずのない屈辱的な内容をウクライナに受け入れさせる手段として、ウクライナの国土を破壊し、ウクライナの国民を殺傷しているのです。子供の喧嘩ではないのですから、ロシアも軍事行動を取るにあたって、十二分に検討しているはずです。軍事侵略では目的を達成することはできないと、ロシアに納得させることができるとしたら、そのとき始めて、「和平交渉のテーブル」につかせることができます。軍事侵略が、ロシアに有利に働いているうちは、決して、ロシアが「和平交渉のテーブル」につくことはありえません。

れいわ新撰組は、後述するように、完全にロシアのプロパガンダの虜になっています。現実の社会や政治って、複雑に入り組んでいて理解が難しいのですが、陰謀論は明瞭にストーリーが構築されていて、わかりやすい。れいわ新撰組を支持するような層に、ぴったりで、山本太郎への忠誠心を強化するのに、うってつけなのです。

国会議員では、立憲民主党の原口一博議員、自民党の西田昌司議員が、同様の陰謀論にハマっており、共通項は反グローバリストであることです。

れいわ新撰組の大石あきこ議員の意味不明なツイート(ロシアによる軍事侵略を止めなければ、軍事ビジネス膨張も止まりません)。この手の陰謀論を語る人たちって、軍事グローバル企業を槍玉に上げて「グローバリズム=戦争大好き」を印象付けようと躍起になっていますが、そもそも、反グローバリズム国家であるロシアが軍事侵攻しなければよかっただけのことなのです。

そもそも、グローバル巨大企業にとっては、既存秩序が平和的に維持されていることが都合いいのであって、戦争リスクはデメリットが大きすぎます。戦争を起こして秩序を壊したいのは、既存秩序に不満がある層です。

軍事企業として世界最大のロッキード・マーチン社(軍需割合80%程度)の時価総額は1,000億ドル程度で、アップル3兆ドルと比べると、たった30分の1です。2位のボーイングに至っては、軍需より民需の方が大きく、戦争がない方が儲かる企業なのです。「軍産複合体が世界を動かし戦争を起こしている」という妄想には数字の裏付けがありません。

ちなみに、陰謀論者が言及する「ウクライナはネオナチに支配されている」ですが、よく言及されるアゾフ大隊創始者アンドリー・ビレツキーを党首とする極右政党ナショナル・コープスは、前回選挙で2.15%の得票しか得られていません。日本のれいわ新撰組よりも少ないです。

非ナチ論

ウクライナをネオナチとして非難する、れいわ新撰組の山本太郎

3月24日、れいわ新撰組の山本太郎議員(代表)は、ウクライナをネオナチとして非難する記者発表を行いました。その根拠として、英紙デイリー・テレグラフ紙を引用したと紹介されましたが、実際にはロシアのスプートニク通信社のものです(この時点でデタラメ)。内容も無茶苦茶すぎてびっくり。中立と言い訳しながら、ロシアのプロパガンダを続けています。

露国営メディアRIAノーボスチ自身が、ウクライナの「非ナチ化」の意味を解説されています。まず、ロシア側の解説を読んでみたらどうでしょうか?

ウクライナは歴史が示すように国民国家として不可能であり、国民国家を「建設」しようとすると必然的にナチズムに行き着きます。ウクライナ主義は、人為的な反ロシアの構築物であり、それ自身の文明的な内容を持たず、外国という異質な文明の従属的要素である。バンデラ派の要素は、ナチス・ウクライナのヨーロッパ・プロジェクトが変装した役者と映画にすぎません。したがって、ウクライナの非ナチ化は、必然的な非ヨーロッパ化でもあります。(略)

ロシアは、ウクライナの非ナチ化においていかなる同盟者も持たないでしょう。なぜなら、これは純粋にロシアの問題だからです。また、バンデラ版ナチス・ウクライナだけでなく、西側の全体主義、文明の劣化と崩壊の押し付けプログラム、西側とアメリカの超大国への従属のメカニズムも根絶の対象になるからです。

(記事翻訳)ロシアがウクライナにすべきこと[RIA Novostiのコラム。ウクライナの非ナチ化、ウクライナ消滅論]

山本太郎氏は、特に何か信念があるわけではなく、陰謀論や扇動が好きなだけだと思います。

中立論

「ロシアとウクライナどちらの側にも立たず」なんて

こういうシーンを想像してください。

あなたの目の前で、暴漢が凶器の刃物を持って別の人に覆いかぶさり、刃物で、相手をブスブスと刺して傷を負わせているとします。そういうとき、(あなたに実力があるならば)まず、暴漢を押さえつけて傷害行為を止めようとしませんか?「暴漢と被害者と、どちらの主張が正しいか分からないから、等距離の中立を保つべきだ」なんて、考えますか?それは、暴漢の暴力を容認しているのと同じです。

「ロシアと、ウクライナの、どちらの言い分が正しいか?」なんて論点は、軍事行動のない平和な状況で論じられることであり、

今の状況は「軍事力による現状変更行動を、放置していいのか?」が、論点です。もちろん、国連憲章2条4項で、国際紛争解決のための武力行使は禁じられていますので、常任理事国であるロシアが、それを破ったことを見過ごせば、同じことをする国が出てきます。中国?北朝鮮?そして、それは、あきらかに、日本に甚大な被害を及ぼすのです。

国益を考えるならば、ロシア、北朝鮮、中国という核保有国に囲まれた日本は、カリーニングラードやベラルーシと国境を接するポーランドと同じぐらいの危険な環境ですが、ポーランドと比較すると、日本人は危機感が低過ぎます。ウクライナの被害への対応は、同情(他人事)ではなく、危機感の共有なのです。

国益を考えるならば、今回のロシアの暴挙を見過ごしてはならないのです。れいわ新撰組に見られるように、中立論は、実際はロシア擁護です。

ウクライナ人とロシア人は、元は同じ国民論

もし、北朝鮮が、日本に対してミサイルを打ち込んできたとき、欧米が「北朝鮮と日本は、元は同じ国民(大日本帝国時代)で、内輪揉めだ」と言ったら、納得できますか?

歴史的には、ウクライナとロシアは別々だった期間の方がずっと長いのです。

バランスオブパワー論

もう一つ。こういう馬鹿げた批評も。

ケネディ元大統領が戦争を防ぎ、外交交渉で解決したキューバ危機と、突然侵略を始めた今回のロシア暴挙の、区別がつかない人たちが主張している論です。

反米のあまりロシアの暴挙を擁護するという、とんでもない主張です。

ロシアが怖すぎるから、ウクライナは自衛のために軍事力を強化せざるを得ないのです。

見方を変えれば、ウクライナにとってロシアは安全保障上の脅威です。本当に平和を求めているのなら、ロシアが緩衝国となって非軍事化すればいいのではないでしょうか。しませんよね。理由もなく、ロシアに軍事侵攻する国などありませんけど。

「ウクライナを、ロシアの中立・緩衝国(事実上のロシアの属国)にすると、欧州のバランスオブパワーが安定する」という主張は、日本に置き換えると、

「日本を、中華人民共和国の中立・緩衝国(事実上の中国の属国)にすると、太平洋のバランスオブパワーが安定する」となります。

何たる、主権国家の意思を無視した驕り高ぶりでしょうか。日本のことは日本が決めるし、ウクライナのことはウクライナが決めるのが当然です。

かつて、ポーランドは、ドイツの軍事力を警戒していました。しかし、現代では、ロシアの脅威もあり、ポーランドがドイツの軍備強化を求めています。このような、現代のドイツとポーランドの関係こそが、最善の安全保障です。バランスオブパワーとは、異なる価値観の勢力の対立が前提です。民主主義や自由主義への対抗軸が存在する世界、それでいいのでしょうか?

バランスオブパワーは、少しのバランスが崩れると壊れる「脆い平和」です。一方、国際法と共通の価値観で支配された平和は、「強い平和」です。反グローバリストは、自由、人権尊重、民主主義といった共通の価値観を、「アメリカ帝国主義の押し付け」などと批判しますが、日本は別に、アメリカに押し付けられたわけではありません。自由、人権尊重、民主主義、これらの価値観は、日本古来の伝統的の中から育ってきたものです。

自国民を守るために派兵論

北海道は、ロシアから奪った地?

2018年、ロシア人権委員会で、プーチン大統領はアイヌをロシアの先住民族と呼ぶ提案に賛成したというニュースが流れました。これだけだと、「アイヌの人々は、かつて、現在の日本領からロシア領にかけて広く居住していたのだから、何ら不自然はない」と考えるかもしれません。

しかし、千島や樺太に居住していたアイヌのほとんどは、第二次世界大戦後、ソビエト連邦の支配を逃れて日本に移住してきました。現在、ロシア領内に暮らすアイヌは、100人程度と言われ、ロシアではこれまで、アイヌは絶滅した民族として少数民族としての扱いもされなかったのです。

一方、日本国内のアイヌは(国勢調査の対象項目でないため正確な数字は分かりませんが)、数万人、あるいは十万人を超えると言われています。つまり、ロシアが少数民族と認定したアイヌは、日本国内居住のアイヌのことなのです。

このロシアの理屈に立つと、北海道などは、もともとロシアのものだったところを日本が不当に奪った地ということになります。「自国民を守るために派兵論」を認めてしまうなら、今でも、ロシアが日本に軍事侵攻する根拠はあるのです。

一方、日本はロシアに北方領土を不法占領されています。正当性はあります。でも、もし、可能だとしても、北方領土を取り返すために軍事侵攻したりしません。

ソ連時代に、日ソ不可侵条約を破って、日本に侵攻してきたこと。ポツダム宣言に違反して、シベリア抑留をおこなったこと。ロシアの国際法を軽視する態度は、21世紀になっても改められなかったのです。

自国人をジェノサイド?

欧州安全保障協力機構(ロシアも入っている)は2014年から現地でウクライナ東部前線を監視し続けて、ウクライナ軍による虐殺の証拠を確認していません。ロシアの主張は全く具体性がありません。

ウクライナ人(特に東部)は、ロシア語をペラペラ喋ります。外見からも見分けがつかないので、「私はロシア系だ」と本人が言えば、ロシア系ということになります。

ちなみに、ゼレンスキー大統領自身、日常的にロシア語で育ったので、ウクライナ語は苦手で、大統領になった後、特訓したそうです。

「ウクライナ東部で、ロシア系住民が虐待されている」という実態は、ロシアがウクライナ東部に住む無法者に金銭や武器を与えて暴れさせ、ウクライナ警察(あるいは軍)が取り締まろうとすると「自国民の保護」と言い出して軍事侵攻したというものです。

身近な例で例えるなら、

歌舞伎町の中国人ヤクザ集団が中国政府から武器の提供を受けて大暴れし、それを東京都の警視庁が取り締まろうとしたところ、自国民保護を理由に中国軍が攻めてきた(しかも、全然関係がない地域にミサイルを打ち込んで一般市民を殺傷)ようなものです。

こんなものを正当化するなど、まともではありません。

抵抗するから攻撃されるのだ。はじめから降伏せよ論

クリミア半島はには、もともとクリミア・タタール人が住んでいましたが、1944年に中央アジアに強制移住させられました。その過程で多くが死亡し、ジェノサイドと言われています。中国のウイグルやチベットを見ても、抵抗する力を持たないものは、もっと残酷な仕打ちに遭っています。

反グローバリズムと経済安全保障

国内の弱い兵器よりも、外国の強い兵器を

今回の戦争では、量的な戦力の差は圧倒的なのに関わらず、ウクライナ軍は予想外に強く、ロシア軍は予想外に苦戦しています。いろんな要因がありますが、電子戦・サイバー戦を中心に、ウクライナの先進性と、ロシアの脆弱性が目立っています。

マイクロソフトなどグローバル企業が、ウクライナを支援しています。

「経済安全保障とは、海外依存を減らして国内生産を進めること」みたいな誤解がありますが、いかに国内生産比重を増やしても、その結果、弱くなったり貧しくなったりしたら意味がありません。

そもそも、ハイテクの塊である最終兵器は、各国の技術の集まりであり、全てを自国で賄うことは不可能である一方、部品の一つでも欠ければ動かないのです。

最近、こんな動きがありました。

現時点で、戦闘機の世界最先端は、アメリカ(ロッキード・マーティン社など複数企業)の第5世代ジェット戦闘機F35です。

しかし、ドイツとフランスは、国内軍事産業保護のため、次期戦闘機としてF/A-18「スーパーホーネット」を共同開発していました。しかし、今回のロシアの軍事侵略を受け、ドイツは計画を撤回して、F35の導入を決定します。国民を守るためには、国内産業保護にこだわってはいられないのです。

世界中から、もっとも良いものを調達することが、国を強く、国民を豊かにする最善の手段です。これを、グローバリズムと言います。

今回、ウクライナが勝利すれば、グローバリズムの優位性がますます、明らかになります。

圧政者と反グローバリズムの親和性

今回のロシア軍事侵攻は、国境を自国に有利なように外側に移動しようとする試みです。しかし、そもそも、グローバリズムが進展すれば、人や物の移動は活発になり国境は限りなく低くなります。国境を動かそうとする動機が消滅します。グローバリズムが平和を促進するといわれる所以です。

しかし、国境が低くなれば、圧政者に都合の悪いことが起こります。「民主主義」が、流入するのです。圧政者が最も恐れるものは、外国ではありません。国内の民主化です。このため、圧政者は、必然的に反グローバリズムに向かわざるを得ません。

NATOは防衛的な同盟である。先にソ連やロシアを攻撃したことはないし、将来攻撃することもない。プーチンはそのことを知っている。しかしプーチンは、ウクライナで成功した民主主義に脅かされている。彼は、成功し、繁栄し、民主的なウクライナが国境に存在していることに耐えられない。

グローバリズムは突き詰めると民主主義の進化なしには成立し得ないので、この20年以上、ロシアや中国が、民主主義への防波堤、反米世論形成のために、反グローバリズムの運動を工作してきました。しかし、今回のロシアによるウクライナ軍事侵攻を擁護する反グローバリズム論者たちを見て、さすがに目を覚ますときではないでしょうか。

陰謀論から

最後に、反原発、反ワクチン、反グローバリズム等々、陰謀論にハマっている人に、ぜひ読んでいただきたい記事(体験談)があるので紹介します。

思うような人生を歩むことができない事を、社会のシステムの責任にしていました。「原発」問題は社会に反撃を行うチャンス。原発というこれほど分かりやすい「悪」はありません。「反原発」を唱えることで、特別な使命を持った選民意識を持てましたし、自己愛が満たされました。

(略)同類同士が傷の舐め合うことができます。しかも現実の煩わしさの少ない、ネットでの情報のやり取りが多かったのです。さらに自分の頭で考えることを放棄できます。道を示してくれる崇拝者、つまり「恐怖情報ソース」がいるのでとても楽でした。居心地のいい場所で、現実の世界にはない絶対的安心感を抱けました。

しかし、それが何も問題を解決しないこと、さらに虚構の上に成り立っていることを、この中にいる人は知りませんし、認めたがりません。

放射能パニックからの生還=ある主婦の体験から — 自らの差別意識に気づいたことが覚醒の契機に

コメントをどうぞ!

  1. アバター画像 Tomy より:

    グローバリズム=悪、という陰謀論的な短絡思考ではグローバリズムのメリットも否定して鎖国主義に陥りますね。ナショナリズムも大事ですが、現実の世界経済の中でのバランス感覚は重要で。
    また、反グローバリズムなど、反◯◯を唱えることがあたかも”正義”のような風潮を政治的に利用してくるポピュリズムにも感化されすぎない自分の視点は大事にしたいですね。

    • アバター画像 週末ボカロP より:

      ウクライナの惨状を見て、「プーチンを止めなければならない」と思うことができないことが信じられませんが、
      反グローバリズムの人たちの思考法って、投稿の最後に紹介した体験談に書かれたとおり、「自分達こそが正義」から逃れられないのかなと思います。