イスラエルとパレスチナのWIN-WIN【後編〜現代と未来】

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この投稿は、上の投稿の続きです。

前回までの総括となりますが、歴史を見ていく中で、「これまでのパレスチナ人には、ろくな指導者がいなかった」と書きましたが、それは、現代パレスチナも似たようなものです。

パレスチナの「イスラエル国内に入ってきて、住民を殺し、拉致して人質として国外へ連れ出す」というテロは、国と国との戦争というより、国境を越えた犯罪です。そして、国外(パレスチナ領域)に逃れてしまえば、パレスチナ自治政府は、これを咎める意思も能力もないので、何度でも続きます。

正しい解決は「パレスチナ自治区に犯罪を取り締まる政府をつくる」ということですが、それは当分は困難です。

パレスチナ政府が犯罪人を捕まえないのなら、イスラエル政府がそれをしようとすると、世界中から非難の嵐です。

世界中の善意の人達は、良かれと思って、パレスチナ問題の解決を妨害しています。

そんなこんなで、解決に向けた、政治的、外交的、軍事的なアプローチは、当面、期待できないです。また、経済的自立がないパレスチナ独立国家をつくったところで、前途多難です。

ということで、経済的なことで一致点を見出して、前に進めていくのがいいと思います。

後編は3ページに分かれています

イスラエルの多様な国民

この章では、現代のイスラエルを、いろんなデータから見ていきます。イスラエルは国内的に色々な問題を抱えていて、その対処が、パレスチナ問題含む周辺国との関係の解決のヒントになると考えるからです。

イスラエルの人口(統計上、東エルサレム含む)を民族別にみると、2023年末で

ユダヤ人720万人(約73%)、
アラブ人208万人(約21%)、
その他約55万人(約6%)、計984万人になります。

建国時には87万人だった人口が、10倍以上になっています。人口推移は次のグラフのとおりです。

2065年には、
ユダヤ人ほか1611万人、
アラブ人384万人、
計1995万人になると予測されています。

その中で、ユダヤ人超正統派の人口増加率が異常に高いです。超正統派は、(宗教教育に重きを置いているため)実用的な学力レベルが低く、貧困率が高く、将来不安となっています。


人口分布は次のとおりです(全人口密度、ユダヤ人居住、アラブ人居住の順)。

言語(2021)については、次のとおりです。

イスラエル政府の統計ですが、表中、ヘブライ語が「母国語ではないが堪能」にないのは不可解に思います。

この表には出ていませんが、ユダヤ人の母国語として、このほかに、フランス語2.1%、スペイン語1.3%、イディッシュ語1.6%、アムハラ語(エチオピア系)1.1%、等があります。

また、アラブ人の47%が職場ではヘブライ語を話しています。また、アラブ人の4.2%が家庭で追加言語としてヘブライ語を話しています。

ユダヤ人が家庭でメインでヘブライ語を話すのは82%、サブでヘブライ語を話すのは9.5%です。

アラブ⼈の25.9%、ユダヤ⼈ほかの 6.3% はヘブライ語を上手に読むことができず、アラブ⼈の26.4% ユダヤ⼈ほかの 7.3%はヘブライ語を上手に書くことができません。

また、ユダヤ人の2.9%(旧ソ連出身の13%)、アラブ人の11%は、ヘブライ語能力が理由で政府サービスに申し込むことが難しいとのことです。


イスラエル在住の就労ビザを持った外国人(2022)は、5.5万人で、旧ソ連1.1万人、インド8千人、フィリピン8千人、と続きます。

イスラエル国民のアラブ人

イスラエルの人口の約21%を占めるのがアラブ人です。

第一次中東戦争で、約8割のアラブ人がイスラエル国の領域から離れ、パレスチナ難民となりました。その一方、古くから定着し、アラブ人コミュニティーが堅固な地域などを中心に、約2割のアラブ人がそのまま残りました。

イスラエル国民アラブ人のうち、約7%がキリスト教徒、それ以外がイスラム教徒(スンニ派92%、ドゥルーズ派8%)です。

また、宗教に関する調査(2016)では、全宗教の「非常に宗教的」が31%、「伝統的」が57%、「世俗的」が11%でした。Pew Researchの調査(2016)によると、イスラエルのイスラム教徒の68%が「宗教が生活の中で非常に重要」と述べていますが、これは、ヨルダン85%、パレスチナ自治区85%、イラク82%と比べて低いです。

当初、イスラエル政府は、アラブ人を軍政下に置き、いろんな権利を制限しますが、1966年に戒厳令が解除され、政府は徐々に差別法を廃止し、アラブ人には法律上、ユダヤ人と同等の権利が認められるようになっていきます。

アメリカ政府の「信教の自由に関する2022年報告書」によると、イスラエル国内では、ユダヤ系とアラブ系は、それぞれの文化を尊重するために、ヘブライ語とアラビア語の、別の公立学校が用意されており、アラビア語を話す公立学校では、イスラム教徒とキリスト教徒の両方のアラブ系の生徒にコーランと聖書に関する宗教の授業があります。ただ、アラブ系にヘブライ語の教育が十分でないことが、社会に出てから不利に働いているという面もあります。

上の学校に行くに従って、アラブ系にないジャンルであれば、アラブ人がユダヤ系の学校に通ったりすることが増えます。少しですがユダヤとアラブが混合の学校もあり、ヘブライ語とアラビア語のバイリンガルカリキュラムを教えています。

高等教育でも、ほぼ人口比率に近づいています。

別の調査では、修士号を取得したアラブ人の割合は、4.9%(2007)から12.4%(2019)に増加、博士号の場合は、 2.8%(2007) から 6%(2019)に留まっています。

公務員がアラブ系である割合は、2020年には13.2%(2000年は4.8%)です。多いものから、保健省19.5%、内務省19.3%、教育省8.8%です。また、女性比率が2020年には44%(2000年は31%)になっています。

また、アラブ系が国営企業の取締役職に就く割合は12%(2000年は1%)となっています。

キリスト教徒でアラブ系イスラエル人である、社会活動家のヨセフ・ハダッド氏は次のように語っています。

ハイファ出身のハダッドは、幼少期に家族とともにイスラエルで最もアラブ人人口が多い都市ナザレに移住した。「私の友人はキリスト教徒、ユダヤ人、イスラム教徒、ドルーズ派でした」と現在33歳のハダドさんは語った。「政治はなかった。私たちは皆、ただサッカーがしたかっただけです。プレイするときは、友達のアシストを頼りにします。誰が何の宗教であるか気にしません。私たちはお互いを信頼していました。」

「ユダヤ人の友人たちが徴兵されるのに、私は徴兵されなかったことに疑問を持ちました。私は軍隊に志願して国に奉仕することに決めました。」(略)

「生まれて初めてア​​ラブとイスラエルの紛争について知りました。アラブの学校制度では、イスラエル国歌や、48年、67年の戦争、73年のヨム・キプール戦争については習わなかった。」(略)

「イスラエルはアパルトヘイトの国だと言われていますが、イスラエル国防軍のアラブ人士官がユダヤ人兵士に命令を下しています。私の指揮官の一人はアラブ人でした。サッカーイスラエル代表チームのキャプテンはイスラム教徒です。国会議員13名はイスラム教徒です。いつもイスラエルは悪く言われます。『イスラエルのアパルトヘイト』について聞かれるのは、もうたくさんです!」

ヨセフ・ハダッド:アラブ人、キリスト教徒、イスラエルの擁護者

地域によって違うのかもしれないし、人それぞれの感受性もあるのかもしれません。

「アラブ人のイスラエル国への帰属意識」調査(The Israel Democracy Institute)では、アラブ人の68%(2023.11)が「イスラエル国家への帰属意識を感じる」と答えました。

10.7テロ前には48%(2023.6)だったので、急上昇しています。


一方、近年、アラブ人の殺人被害者の急増が社会問題となっています。2014年には51人だった被害者が、2021年には110人に増えています。2000年以降の殺害被害者は1574人で、警察によるものが68人、他のアラブ人によるものが1506人です。

人口20万人あたり殺人件数(2021)では、
イスラエル全体では、1.9人ですが、アラブ人では5.2人となっています。
(参考までに、日本は0.2人、米国は6.8人)

ユダヤ人とアラブ人とのパートナーシップに対する調査から、犯罪率が高い理由を聞いたものが、次の図です。


次ですが、PewReserchCenterの調査の「イスラエルのイスラム教徒が、治安部隊によって経験したこと」については、このような感じです。(下の内訳と合わないので、おそらく「イスラム教徒ではなくアラブ人」の間違いでは?)

2014-152023春
家や財産に損害を被った12%4%
仕事や家や学校への移動を妨げられた10%4%
呼び止められたり尋問されたりした15%13%
身体的に脅迫されたり、攻撃されたりした10%8%
上のどれかを経験した30%20%
このことで、ユダヤ人から懸念や同情を表明された25%13%

2014-15については、内訳がありました。

イスラム教徒キリスト教徒ドゥルーズ派
家や財産に損害を被った13%4%9%
仕事や家や学校への移動を妨げられた15%4%8%
呼び止められたり尋問されたりした17%2%4%
身体的に脅迫されたり、攻撃されたりした15%4%7%
このことで、ユダヤ人から懸念や同情を表明された26%15%18%

イスラエル国民のユダヤ人

イスラエルの人口の約73%を占めるのがユダヤ人です。

イスラエルの帰還法によるユダヤ人の定義は、「ユダヤ人の母から産まれた者、もしくはユダヤ教に改宗し他の宗教を一切信じない者」となっています。(ユダヤ人の父を持つ者をユダヤ人とすることについては、世俗派まで含めて、幅広く反対が多数派です。)

さらに、イスラエル政府の統計局の統計を中心に見ていきます。

次の表は、時系列の大陸別移民の割合を見る表です。1919年以前は詳細なデータがありません。時代によって、数にバラツキがありますので、5年毎、1年毎、等、単位は様々に直しましたので、注意してください。

建国前は、欧州(中東欧)が中心でした。建国直後は、アジアやアフリカのアラブ諸国から追い出された移民が増えてきます。1955年ごろは、アフリカのアラブ諸国が次々と植民地から独立国になった頃で、反ユダヤ政策が取られるようになったため、そこからの移民が増えています。1960年ごろにはアメリカからの移民も増え始め、1990年ごろから、冷戦終結とともに旧・ソ連からの移民が増えています。

上の表は、イスラエルのユダヤ人704万人(2022)のうち、移民とイスラエル生まれの年齢別の表です。

64歳以下では、既にイスラエル生まれが多くなっています。

下の表は、同じ年齢別ですが、移民前の出身大陸の表です。父がイスラエル生まれの場合は「イスラエル」と、父または本人が移民の場合には、それぞれの大陸となっています。


次の表は、父または本人が移民の場合、国別のルーツとなっています。建国の前(おそらく、この表には出てこない)は、中東欧が大半だったように思いますが、世代が進み、かなり多様化しています。

ソ連(旧)は、おおよそ3分の1がロシア、3分の1がウクライナ、3分の1が中央アジアということです。

次の表は、最近(2000年から2022年まで)の、移民の出身国(生まれた国)の上位10か国です。

ロシアとウクライナは、もともと上位2か国なのですが、2022年はウクライナ戦争の影響で特に増えています。

1ロシア 93,317人15.0%
2ウクライナ 74,897人12.1%
3アメリカ 44,435人7.2%
4フランス 43,836人7.1%
5エチオピア 36,128人5.8%
6アルゼンチン 16,780人2.7%
7ウズベキスタン 10,233人1.6%
8イギリス 9,655人1.6%
9ブラジル 7,295人1.2%
10モロッコ6,856人1.1%
全体621,088人100%

イスラエル政府統計によると、世界全体のユダヤ人は1568万人(2022)で、そのうちイスラエル国民710万人は45%になります。イスラエル以外では、アメリカ630万人、フランス44万人、カナダ39万人、イギリス31万人、アルゼンチン17万人、ロシア13万人、と続きます。

イスラエルでの、アラブ人とユダヤ人の共生

イスラエル政府の統計局などから、調査の結果をいくつか紹介します。

雇用者316万人(なお、自営業は42万人)の収入状況(2022)、アラブ人とユダヤ人の内訳については、次のとおりです。ユダヤ人の男女就業比率は、どのグループも少し女性が多いぐらいですが、アラブ人の女性就業率は男性の半分ぐらいです。

アラブ人の月収は、ユダヤ人と比較すると、6、7割に留まっています。ただ、イスラエル人1人あたりの平均が、周辺アラブ諸国の10倍を軽く超えるため、イスラエル国のアラブ人は、周辺国のアラブ人と比較すると、数倍は裕福です。

同じユダヤ人でも、欧米出身とアジア・アフリカ出身では、大きく差が開いています。移民後、間もないアジア・アフリカ出身のユダヤ人は、アラブ人とそれほど変わりません。ただ、定着が長くなるに従って、収入水準も高くなってきています。次の世代になると、差はほとんどありません。

次の表は、高所得から低所得まで10階層に分けたものです。

高所得になるほどユダヤ人比率が増えていく一方で、低所得になるほどユダヤ人比率が増えています。

ユダヤ人には、人種的にはエチオピア系、宗教的には超正統派という貧困階層があることが影響しています。


次の調査は、「生活満足度(20歳以上)」です。細かいニュアンスがわからないので、時系列変化や、各項目間の高低に着目していただければと思います。


年代別(全国民20歳以上)の「現在の生活満足度」と「今後の改善見込み」です。

若い年代が将来に希望を持っていることがわかります。パレスチナで同じような調査をしたら、どんな結果だろうと思わされました。

次は「公的なものへの信頼感」です。

「この1年間で差別を受けたと感じたことがあるか?その内容は?」という調査(2022)によれば、差別を受けたと感じた人の割合は、ユダヤ人が18%、アラブ人が34%でした。対象は、イスラエル国内に常駐している20歳以上の住民です。その内訳が、次の図です。

ヘブライ語をGoogle翻訳したので、細かいニュアンスがわからないのですが、アラブ人が全体的に「差別を受けている意識」が高いです。ただ、年齢や性別まで、アラブ人は被差別意識が高いので、もともと、高めに答える傾向があるのかもしれません。

また、ユダヤ人は「宗教>民族>国籍」なのに、アラブ人は「宗教<民族<国籍」なのは、興味深いと思いました。

イスラエルのアラブ人は、周辺国に親戚がいる場合も多いようです。

次の調査(2022)は、「社会格差を減らすために国家がとるべき主な措置」です。

ユダヤ人は「教育への投資」の回答が多め。アラブ人は「国の手当や雇用政策」が多いです。


 また、「今日のイスラエル社会のグループ間関係」についての調査(The Israel Democracy Institute)で、二極化による「関係性」について聞いています(2023)。「ユダヤvsアラブ」「世俗vs宗教」以上に「右派vs左派」の対立が大きいようです。

次は、ユダヤ人とアラブ人とのパートナーシップに対する調査からです。(括弧外は2019のもの。/括弧内は2021.8のもの)

ユダヤ系イスラエル人の59% は、アラブ系イスラエル人がイスラエル国家に忠誠を尽くすことは不可能であると信じています。対照的にアラブ人の70%は、これは可能だと考えていました。

ユダヤ人の70%、アラブ人の75%が、ユダヤ人とアラブ人が一緒に働く場所で働いているか、過去に働いていました。ユダヤ系イスラエル人の92.5%、アラブ人の98%が仕事上の人間関係を「良好」または「非常に良好」と答えています。

ユダヤ人の中で、81%(71%)が職場でアラブ人の同僚を受け入れることに前向きです。64%(58%)は個人的な友人として。同じ建物の隣人として58%(45%)。しかしアラブ人を配偶者として受け入れる意欲がある人は12%でした。

一方、アラブ系イスラエル人のほうは、96%(88%)が職場でユダヤ人の同僚を受け入れることに前向きです。85%(78%)は個人的な友人として。同じ建物の隣人として89%(64%)。そして22%はユダヤ人を配偶者として受け入れることに前向きです。


ユダヤ人とアラブ人とのパートナーシップに対する調査(2021)からです。(上の調査と質問は似ているけど結果はかなり違うものがあります)

次は、「THE ISRAELI DEMOCRACY INDEX(2022)」の調査です。

「もし、西側諸国の市民権を取得できるとしたら、移住したいですか?残りたいですか?」の質問に対して、ユダヤ人よりアラブ人の方が「イスラエルに残りたい」の比率が高いです。さらに、アラブ人の内訳は、

イスラム教徒が84%、
キリスト教徒が74%、
ドゥルーズ派が72%、でした。

「イスラエルは住むには良いところである」に賛同する。

年齢アラブ人ユダヤ人
18-2437%43%
25-4450%59%
45-6464%69%
65-63%80%

「イスラエルは住むには良いところである」に賛同する人の割合は、前表のとおりです。

全体では、ユダヤ人64%(2017年は86%)、アラブ人52%(2017年は73%)でしたが、年齢が高くなるにつれて、賛同比率が高くなっています。

賛同が減ってきているのは、近年の、政権与党への不信が大きいと考えます。

新しいイスラエル、古いイスラエル

イスラエル在住の日本人がSNSで発信しているのを見ていると、彼ら(彼女ら)は、アルジャジーラなどアラブメディアも観ている人も多く、西岸入植地には批判的な人が大半です。そこで、共通するのは、皆、日本のメディアで放映される「ユダヤvsアラブ」という単純構図に反発しており、イスラエルやパレスチナの多様性を強調していることです。

何故、日本のメディアでの中東専門家の解説と、イスラエル在住の日本人の説明が、(学者のポジショントークはあるにせよ)ここまで、まったく、食い違っているのかなあと考えたのですが、

見ている景色が違うのだと気がつきました。

イスラエルの西側(地中海沿岸)は、多くの国民が住み、中東のシリコンバレーと言われるようにアップル、グーグル、マイクロソフト等のハイテク企業の研究・開発拠点があることで知られています。また、工業も農業も観光も盛んで、世界から人を集め、ハイファなどでは、ユダヤ人もアラブ人も同じ幼稚園に通っている事例もあります。

現地在住日本人が生活しているイスラエルはこちらで、現代アメリカのような感じです。

日本の政治家が、「既得権益」の人たちの意見ばかり聞いて「国民の声だ」と言ってるのと同じで、中東専門家の中にも、たまに中東を訪れて国際援助「既得権益」の人たちの意見を聞いてるだけとしか思えない人もいます。

学者は極端にピラミッド型の(上の方針に逆らえない)世界ですし、そのポジションに合わせてストーリーを組み立てがちなので、

経済的な理由などでイスラエルに滞在している日本人の声のほうが、市井の人との日常的な交流もあり、(網羅的ではないとしても)現地の事情を正しく伝えているような気がします。

そもそもアメリカは、イギリス国教会の迫害を逃れたピューリタンが、理想郷を作ろうとメイフラワー号に乗って大西洋を渡ってきた宗教国家なのです。WASPを頂点とした人種差別社会であり、有色人種は一歩も二歩も下がって生活していました。そして、少しずつ、人種間の垣根が低くなってきました。イスラエルも、アメリカと同じ道を辿っています。

自由主義経済は、WIN-WINの世界であり、先進国となったイスラエルは、多様性を尊重せざるをえません。グローバリズムと、ユダヤ人単一国民国家は相容れないのです。

後を絶たない「ユダヤ陰謀論」って、「ユダヤ人はグローバリズムの権化だ」というようなものですからね。陰謀論は間違っているとはいえ、ユダヤ人はグローバリズムと親和性が高いと思います。

一方、ヨルダン川西岸は、一昔前のアメリカのようです。まるで、ジョン・ウェインが出てくる映画、200年前のアメリカの西部開拓時代のように、開拓者(ユダヤ人)が先住民(アラブ人)を見下していると言われても仕方ないかもしれません。政府から多額の補助金が投下され、入植者への優遇も多い後進国型経済です。残念ながら、まだまだゼロサムの世界です。

日本の中東専門家が主に解説するイスラエルはこちらなのです。

ユダヤ教の信念から入植しているというより、入植の正当化のためユダヤ教を切り取って理由にしているというのが本音だと思います。

ガザやヨルダン川西岸では、イスラエル人に比べてパレスチナ人は不当に低い状況に置かれていて、改善が必要です。

しかし、先に書いたように、その根本原因は、アラブ格差社会にあります。ヨルダン川西岸で、ユダヤ人とアラブ人を比べれば、経済的のみならず、人権状況も格差があります。しかし、アラブ人同士の場合には、もっと大きな格差があるようです。

 社会的問題としては、今後貧富の差がより明確になる可能性がある。パレスチナ社会は、伝統的アラブ社会であり、貧富の差は激しい。しかし、イスラエル占領下にある状態では、あからさまな貧富の差は顕著化しなかった。しかし、暫定自治が開始されより(略)これまで内在化されてきた貧富の差が日常的な風景として顕著化しつつある。

第2章 パレスチナの政治・経済・社会動向」日本外務省

イスラエル企業に勤めるパレスチナ人は、パレスチナ雇用者の元で働くパレスチナ人よりも遥かに高い待遇を受けています。

その解決策は、パレスチナ人がイスラエルの労働市場に自由にアクセスできるようになることです。そうなれば、パレスチナ企業も、パレスチナ人労働者が逃げて行かないように対応せざるをえず、パレスチナ人の生活水準向上が期待できます。

そのように考えていくと、パレスチナ問題が国際的に解決したところで、国内的な問題はそのままでは、パレスチナの国民が豊かに、幸せになるとはとても思えません。

国家間、政治的な解決を急ぐ必要はあるのでしょうか?
今は、パレスチナの経済を優先して考えていくほうがいいのではないでしょうか?

その前提は、テロが起こらずに平和と治安さえ保たれるようになることです。

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