イスラエルとパレスチナのWIN-WIN【後編〜現代と未来】

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後編は3ページに分かれています

日本に置き換えて考えてみましょう。

第1次中東戦争でパレスチナ難民が発生する3年前の1945年、第二次世界大戦で、ソ連に不法占拠された千島列島の北方領土から追い出された旧島民は、約17,000人です。

ソ連から引き継がれたロシアの不法占拠は不当であり、旧島民の帰還を求めていかなければなりません。でも、旧島民は帰還権を主張し、子や孫やひ孫の世代まで、国際援助を受け続けていたりしません。

日本全体で見ても、1948年の農家人口は約3900万人(総人口の45%)でしたが、現代はその10分の1です。多くの日本人が仕事を変え、列島を移動しています。歴史的に見て、日本人は土地への愛着が高く、アラブ人のほうが移動傾向が高いのです

そもそも、1948年パレスチナの帰還権と言ったって、子や孫やひ孫のうち、地位や祖父や曽祖父が、どこに住んでいたのか、きちんと住居地を特定して主張できる者がどれぐらいいることでしょうか?そこに帰還したとして、仕事を持ち生計を営むことはできるのでしょうか?

75年も前の既得権にしがみついて、未来が開けるのでしょうか?

未来への不安

何十年も前の国連決議の解釈をめぐって、争うなんて馬鹿げています。難民であろうがなかろうが、既得権益にすがる者は、時間の経過と比例して時代遅れとなり、衰退の道をたどります。

まず、その発想から抜け出さなければなりません。そのうえで、

テロのような暴力がなければ、この地域のポテンシャルは高く、パレスチナの人々は、その潜在力に応じて豊かになるというのが筆者の考えです。

経済上、パレスチナの最大のメリットは、イスラエルに近接していることです。

ただ、懸念もあります。そして、その懸念を払拭できるかもしれない希望もあります。

周辺国も含めると土地が少ないというより、豊かな土地が足りない

ガザは過密と言われているけど、人口密度は大阪市の1.2万人/平方km(約270万人/225平方km)に比べて、6万人/平方km(約220万人/365平方km)であり、半分ぐらいです。

最高標高も170mで、ほとんど平地です。

そのガザの北部からGoole Earthでみてみました。(画像は北部の一部です。上と右がイスラエル)
近づいたり、離れたり、あちこち見ましたが、普通に、よくある都会だと感じました。

イスラエル側はStreetViewで詳細が見れましたが、荒野(少し東に行くと砂漠)と農地が混在している感じです。

StreetViewは紅海まで、ずっと見ることができましたが、下記で紹介する動画「砂漠化へ立ち向かうイスラエルの取り組み」と同じような風景のあと、広大な砂漠が延々と続いていました。

次の地図は、中東全体の人口密度(2015年)の分布です。中東と日本を同じ縮尺にしています。日本と比べると、一番の問題は、砂漠が大半であり、人口を維持する水資源が不足していることです。

爆発する人口

パレスチナ難民は、1948年(昭和23年)に遡ります。時代は随分変わりました。

同じ頃、第二次世界大戦に負けた日本人は、満州、朝鮮、台湾、南樺太、千島、などから、約500万人が本土に移動してきます(途中の死者も多数)。

当時のパレスチナ難民も、イスラエルとの戦争に負けて、他のアラブ地域に避難したものでした。しかし、産油国と非産油国で、大きな利権格差があることが明らかになり、英仏が勝手に引いた国境線とはいえ、徐々に一体感のある「アラブ人」ではなく「パレスチナ人」が強調されるようになります。

第一次中東戦争前に、パレスチナに住んでいたアラブ人は123万人、ユダヤ人は60万人でした。隣国のヨルダンは、1948年には38万人でした。(それらの地域の)アラブ人人口は、ざっと160万人でした。

イギリス当局は、この地域でまかなえる人口は、(水の供給上限からは)最大200万人までと想定していました。

2021年、イスラエル国内のアラブ人は199万人、パレスチナ自治区は492万人、ヨルダンは1,114万人です。合わせるとアラブ人人口は1805万人と、10倍以上になっているのです。ヨルダンの人口が増えているのは、内戦中のシリアからの難民流入の影響も大きいですが、そのシリアも、1960年の461万人から、2021年には2,132万人に増えています。

(ヨルダンやシリアには、若干の他民族を含みます。)

この80年間、イスラエル国内から多くのパレスチナ難民が流出しましたが、多くが流出してもなお、イスラエル国内のアラブ人は、イスラエル建国前と比べて(自然増などで)50%以上も増えています

もし、ハマスが願うように、この地域からユダヤ人が一人残らず消えたとしても、80年前から10倍以上に増えたアラブ人に行き渡る「仕事」も「水」ありません。

繰り返しますが、仕事も水も足りません。

そして、パレスチナと、ヨルダン、レバノンの一人当たりGDPは、ほとんど変わりません。パレスチナ人が貧しいのは、全てイスラエルのせいなのでしょうか。

金持ち産油国を除いて、ほとんどのアラブ人の国は、反政府の武装勢力に悩まされています。パレスチナ人と一言で言っても、エジプトなどにルーツを持つ農耕系のアラブ人と、アラビア半島の遊牧系のルーツを持つアラブ人がおり、多様です。もし、イスラエルが存在していなかったとしても、パレスチナは今頃、シリアのようになっていた可能性もあります。

オスマントルコ支配の時代、パレスチナは、シリアの一部として扱われていました。しかし、英仏が国境線を引き、それぞれの道を歩みます。

今は、そのシリアが2011年から内戦状態にあり、政府は反政府市民に対して化学兵器も使い、その死者は推定40万人以上。国外難民512万人、国内難民680万人(2023年末)と桁外れになっています

イスラエルとアラブ諸国との間の数回の中東戦争の死者を全て合計しても、シリア内戦の数分の1にしかなりません。パレスチナ問題よりも、はるかに規模が大きい惨劇が続いています

イギリス統治時代のピール委員会報告でも指摘されたように、ユダヤ人はアラブ人の土地を奪ったのではなく、アラブ人の土地とは別に農地を開拓したのです。アラブ人から奪ったとすれば産業ですが、それは自由主義経済の結果です。

パレスチナ人の真のニーズは「経済、生活の向上」だと思います。「貧困の原因は、イスラエルに追い出されたからだ。先祖の土地に帰還すれば」と考えているとすれば、仮にイスラエル国家が消滅したとしても、次の不満が爆発するのは明らかです。

イスラエル経済に依存しなければ、貧困国からの脱出は困難です。

不安定な周辺アラブ国

隣にある貧しい国のヨルダンでは約230万人のパレスチナ難民、約66万人のシリア難民がいます。シリアには約680万人の国内避難民、イラクには約120万人の国内避難民がいます。さらに、今後の情勢次第で難民となる予備軍も多いでしょう。これらは、パレスチナ人と同じアラビア語を話すアラブ人です。

また、言語も民族も違うトルコには、約350万人のシリア難民が暮らしています。

さて、現在のパレスチナは貧しく、紛争も多いので、難民を受け入れるような状況ではありません。しかし、もし、治安が守られ、経済的にも豊かになってくれば、同じアラブの国として、これらの難民が押し寄せることも十分にありえます。その中には、危険分子も混じっているでしょうし、相当の治安体制が必要です。

水の枯渇

1966年、イスラエルは、シリアがおこなおうとした(ヨルダン川の水源の一つである)バニヤス川の転流工事を防止しようと空爆します。もし、この工事が完成すれば、イスラエルの最大水源であるヨルダン川の流水量は3分の1以下になることが予想されていました。そして、次の年、第三次中東戦争が起こり、イスラエルは水源であるゴラン高原を占領します。

パレスチナで続いてきた「土地をめぐる争い」は「水をめぐる争い」です。

1997年の広報ですが、日本外務省のODAのサイトには次のように書かれています。

 今後、必要な量と質の両面における水資源の確保を巡る抗争が中東地域の国際的緊張の原因となりうることが各界から指摘されている。(略)水と紛争・戦争とを結びつけて議論することが多くなっている。(略)

水を巡る中東諸国間の紛争はアラブ・イスラエル紛争より深刻で広範な問題となる可能性を指摘する識者も少なくはない。その意味で水供給の増加及び効率的使用に関する援助は単に民生、農工業の発展という視点と関連して潜在的な紛争を事前に予防する意味を持っており、その主旨のメッセージを明示的に提示することは国際平和に資するという日本の援助理念に基本的に合致するものと思われる。

「平成11年度経済協力評価報告書(各論)」外務省

死海は、有名な観光地ですが、年々、縮小しています。その原因は、そこに流れ込むヨルダン川などから取水しすぎていることです。この50年で3分の1以上の面積が失われています。2050年には死海は消滅するという学者もいます。土地があっても水がなければ住めません。

死海を挟んだ隣国のヨルダンは、世界一、水が不足している国です。ヨルダンの国民一人あたりの年間使用可能水量は245㎥といわれています。これは一般的に水不足と定義される基準である年間1,000㎥を大きく下回っています。

恒常的な水不足は、現在、そして将来に向けて、この地域一帯の最大の問題です。

ヨルダン川西岸では、イスラエル入植者によってパレスチナ人が虐げられています。実際の争いは、土地が足りないのではなく、水が足りないことに起因しています。

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