土木工事入札と護送船団方式

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まとめ 
  1. 公共工事の入札では、改革のアクセルと、既得権者を守るブレーキを同時に踏んでいる。
  2. 典型的な具体例としては、地元土木業者を守るために、国土交通省が分割発注を推奨しており、護送船団方式になっている。
  3. アクセルとブレーキのために公共工事の入札は複雑になっており、それが業者の無駄コストとなっている。

ネット界隈では、公共事業(特に土木工事)が話題になることは多いですが、その際に、実際の公共事業の入札や契約そのものの実態については、ほとんど話題になりません。(一般的なことは国土交通省の「最近の建設業を巡る状況について」を読めば、大体わかります。)

そのため、あり得ない主張が、さも真実のように語られます。例えば、こんな主張です。

公共事業の入札において、国外や地域外の業者は安値攻勢をかけてくるので、地元業者は倒産や廃業を選択し、虎の子の供給能力が毀損していく。

こういうことは、地元業者が担ってきた規模の公共工事では、ありえません。

SNSで、こういう主張が、さも、事実であるかのように議論が進んでいたのを目にしたことが、今回の投稿の動機です。

少し、思い起こしてみてください。あなたが近所を散歩していたとき、公共工事をしている側を通行したりすることがあるかと思います。必ず、工事概要の看板に工事業者名が書かれているはずですが、殆どが地元業者か、地元に支店や営業所がある全国業者です。地元に縁のない業者が役所から受注して工事をしている事例など、極めて特殊です。

なぜ、他国はおろか、他地域の土木業者が、地元の土木工事に参入することが、ほとんどないのでしょうか。
それは、労働者や資材の確保などに地元の利があるといった要因も大きいのですが、入札制度にも理由があります。今回は、その入札制度を、具体的な事例を通して取り上げます

国土交通省が分割発注を推奨

日本は、WTO政府調達協定(GPA)を締結していますので、(自治体の場合)23億円以上の建設工事については、自国と他国の業者を差別しないことを義務付けられています。

ただ、実際には23億円を超えるような入札は稀です。
というのは、国土交通省が分割発注を推奨しているからです。

国土交通省は、中小企業・小規模事業者の受注の機会の増大を図るために、基本方針に即すとともに、次のとおり取り組む。(略)

4 分離・分割発注の推進
物件等の発注に当たっては、明らかに中小企業・小規模事業者の参入の余地がないと考えられる案件を除き、価格面、数量面、工程面等からみて分離・分割して発注することが経済合理性・公正性等に反しないかどうかを十分検討したうえで、可能な限り分離・分割発注を行うよう努めるものとする。

令和5年度における国土交通省の中小企業者に関する契約方針」

この段階で、国土交通省は、中小企業・小規模事業者寄りの護送船団方式採用のスタンスを明らかにしています

わかりやすく言うと、5つの業者で5つの椅子を争う椅子取りゲームをしているようなものです。入札によって、良い椅子から先に埋まっていきますが、全員が椅子に座れます。そして、脱落者がいないので、また同じメンバーで次の椅子取りゲームが始まります。

実際には、小泉政権のように公共工事全体のパイを小さくすることがあったり、民間工事があったりするので、そう単純ではありませんが。

多くの業者に仕事が行き渡ることを目的とする「分割発注制度」は「自由競争」に反しています。

つまり、公共工事の入札では、色々な改革がなされているのですが、それと並行して、その改革から既得権業者を利する仕組みも付け加えられており、結局、複雑になって全体のコストが膨らんでいます。

以上が結論です。

ここからは、具体的に、退屈な説明が延々と続きます。

土木工事入札の仕組み(兵庫県を事例として)

全体を網羅して説明すれば、非常に長く退屈になるので、全体像に変化が生じない範囲で省略しているところが多々あります。それでも、今回は制度の説明が延々と続きます。

具体的な事例で見ていきます。
筆者の地元勘のあるところで、兵庫県芦屋市の沖合の面積約125haの人口島「南芦屋浜」での「南芦屋浜護岸改修工事」を題材にします

南芦屋浜は、1969年埋め立て開始、1979年入居開始の新興住宅地です。
兵庫県南東部は、平成30年の台風21号で、過去最高潮位を記録し、いくつかの地域で浸水被害が出ました。そこで、兵庫県は、「兵庫県高潮対策10箇年計画」を立てて、令和元年度から10年間かけて、防潮堤かさ上げ工事を進めています。

面積約125haの人口島「南芦屋浜」の防潮堤(外周)は、約10kmになります。これをまるまる工事発注するとすれば、WTO基準の23億円は超えるかもしれません。
けれど、実際には、次図(全体工事の一部の南護岸)のように、いくつもの区域に分割して入札、発注をおこなっていますので、一つの工事あたりの契約金額は、1億円~5億円程度になります。

では、このような規模の工事は、どのような入札をおこなっているのでしょうか。

兵庫県の入札制度ですが、一般土木工事の入札は、契約予定金額ごとに、次のようになっています(国や自治体ごとに、入札制度の根幹は共通ですが、微妙に異なっているので、あくまで、一つの自治体の例として読んでください。)

  1. 22.8億円以上は、WTOの政府調達に関する協定によって「自国と他国の業者を差別しない」ことを義務付けられている(WTO案件)一般競争入札です。
  2. 2億5千万円以上22.8億円未満は、公募型一般競争入札
  3. 1千万円以上2億5千万円未満は、制限付き一般競争入札
  4. 1千万円未満は、指名競争入札
  5. 250万円未満は、随意契約、となっています。

そのうち、原則的に、2千万円以上は、価格だけではなく、「(企業及び担当予定専門技術者の技術力や、社会貢献実績を反映した)総合評価落札方式」となっています。

つまり、「南芦屋浜護岸改修工事」の(分割された)個々の工事の場合は、

  • 契約予定価格が2億5千万円を超えるものは公募型一般競争入札、
  • 2億5千万円を下回るものは制限付き一般競争入札


になります。いずれも、純粋な価格競争ではなく、総合評価落札方式です。

総合評価落札方式

まず、総合評価落札方式について書きます。

平成17年に施行された「公共工事の品質確保の促進に関する法律」において、公共工事の品質は「経済性に配慮しつつ価格以外の多様な要素をも考慮し、価格及び品質が総合的に優れた内容の契約がなされることにより、確保されなければならない」とされました。そのための制度として、国土交通省が推奨しているのが総合評価落札方式です。

当初は、主に「技術提案」審査を想定してスタートしましたが、受注のためにオーバースペックな提案をする企業が次々と出てきたこと、提案作成の入札に参加する企業の負担が大きいこと、などから、徐々に、技術提案をするほどでもない(大半の)工事では、過去実績(技術や社会貢献)を評価する形が主流となっています。この実態については後で書きます。

入札参加資格

公募型一般競争入札の場合には、入札参加資格には次のような条件が付きます(実際には多くの条件がありますが、今回の投稿に関連することだけを簡潔に書きます。)

  • 兵庫県内に建設業の許可を受けた主たる営業所を有すること
  • 入札参加資格者名簿での格付等級及び点数がA等級XX点以上であること。
  • 過去に兵庫県が発注した工事に係る実績(成績)を含む、技術・社会貢献評価数値の合計点数がXX点以上であること。
  • 監理技術者資格を有する(一定期間雇用している)監理技術者(専任技術者)を本件工事に専任で配置できること

制限付き一般競争入札の場合も、ほぼ同じですが、格付等級要件(企業規模)が緩くなる一方で、「建設業の許可を受けた主たる営業所」の所在地要件が「兵庫県」から「兵庫県阪神南地域」と、より地域性が増しています。

格付等級及び点数

そもそも業者は、県が2年に1回、実施している入札参加資格審査を受けて、入札参加者名簿に登載してもらわないと、入札に参加できません。
その審査で、県は、業者ごとに業者規模等に応じて、(「A等級XX点」のように)格付等級及び点数を決めています。

小規模工事に入札参加資格がある業者は、E等級の業者、
中規模工事に入札参加資格がある業者は、D等級の業者、
もう少し大きい工事ではC等級の業者、B等級の業者、
大規模工事はA等級の業者と、工事規模に応じて参加資格が変わってきます(柔道の階級別のイメージです)。

価格だけの入札と違って、総合評価方式では審査が面倒なので、あまり多くの業者に参加されたら大変です。かといって、少なすぎて入札不調になっても困ります。そこで、入札参加業者数の予測をしながら、入札参加資格の条件を拡げたり狭めたりします。

さらに、中小規模工事の入札(D、E等級対象)については、兵庫県から受注した工事の実績は求められませんが、大規模になるほど、兵庫県からの受注実績が入札参加資格に求められるようになります。

工事の規模によって、実情はかなり異なってきますが、以下では、Aランク工事を対象として書いていきます。

ここで、勘のいい人は気がつくと思いますが、
企業規模がA等級なのに、兵庫県からの受注実績がない業者は、どの規模の入札にも参加できないようになっているのです。

A等級にエントリーするには、EやD等級から実績を増やし、階級を上がっていくしかないのです。他県から、いきなりA等級の選手がやってきても、エントリーすらできないのです。

このあたりの仕組みを知っていると、他国や他地域の大企業が、いきなり地元の土木工事入札に参加することなど不可能であることがわかります。

地元業者でも、民間工事の実績ばかりで、公共工事の実績がないと同じことになります。

一つの工事につき、一人の専任技術者

さらに、入札条件で重要なのは「(その企業に一定期間の雇用実績がある)専任技術者」です。

大規模工事には、その工事だけに専任する有資格の技術者が必要です。一つの工事現場に、一人の専任技術者です。ですから、専任技術者の数だけしか、大規模工事を受注することはできません。日雇い労働者や機材であれば、雇ったり、下請にしたりして対応できますが、専任技術者は、その企業での雇用実績が条件であるため簡単に増やせないのです。
よく「土木業界の人手不足」が話題になります。一般労働者も不足しているのですが、(制度的に)不足しているのが、この専任技術者なのです。

大規模工事を分割すると、それぞれの分割された工事に一人ずつ、専任技術者が必要になるため、さらに人手不足になります。

デジタルな遠隔対応が可能な時代に、「一つの工事現場に一人の専任技術者が必要なのか」という疑問もあり、国土交通省は、微修正的な見直しの検討を進めています。専任技術者の制約が、土木業界の護送船団方式を安定させているという面もあると思われます。

この後で具体的に説明する入札では、入札申込業者は10業者のうち3者が参加申し込みしていたのにかかわらず、入札せずに、辞退しました。
辞退の理由の主なものは、申込時に予定(申請)していた専任技術者(候補)が、他の入札で落札したために、この工事にあたることができなくなってしまったためと思われます。

専任技術者となりうる技術者を全て工事に充ててしまうと、もう、その業者は、工事を受注することはできません。そのようにして、年度末に向けて、少しずつ業者が入札に参加しないようになります。つまり、どんどん競争が緩くなります。

入札の実際

さて、実際の入札を見ていきます。兵庫県の入札情報サイトでは、最長2年間、入札結果を情報公開しています。南芦屋浜の工事の殆どは、公開期間を過ぎており、現時点で公開されていたのは、「南芦屋浜東護岸改修工事(その6)」だけでした。

完成直後の現地に行って写真を撮ってきました。景観を守るために、一部(と言っても、かなり)をアクリル板になっています。「強度が大丈夫か」については、ここに解説があります

入札結果は、下のとおりです。

入札申込業者は10業者で、3者が辞退したため、実際に応札したのは7者です。

応札したうち3者は、入札金額が調査基準価格を下回ってしまったため、無効になってしまいました。残りが4者です。「調査基準価格」とは、「これ以上下回ると、ダンピングの疑いがある」と調査の対象となる価格です。調査基準価格については、後で書きます。

そして、有効な入札をした4者のうち3者は、調査基準価格ぴったり(つまり下限ぴったり)の価格で応札し、技術評価点でも同じだったため、「くじ引き」で落札業者が決定されました。

落札した大喜建設(株)は、資本金90,750千円、従業員16名(うち一級土木施工管理技士 14名)の地元企業で、入札参加企業はこの規模の企業が大半です。

調査基準価格ぴったりの金額で応札って、びっくりしますが、この芦屋浜護岸の工事全てが複数業者が調査基準価格ぴったりの金額で応札し、その多くは「くじ引き」しているようです。

なぜ、下限ぴったり価格で入札できたのでしょう。県は、入札にあたって(金額抜きの)設計書を公開しますが、もともと資材ごとの設計単価を公表しています。なので、公開設計書に記された数量と公表単価を掛け合わせれば、護岸工事のような単純な工事では、専用ソフトを使って計算して、県が設計した工事価格をあてることができるのです(無効になった3業者は計算を間違えたと思われます)。別に不正なことをする必要もありません

まあ、最初から最低価格を公表しているような自治体もあります。

一方で、最低価格を業者に漏らしたとして役人が逮捕されることもあります。

工事により様々です。

さらに、何故、下限ぎりぎりで入札したかというと、土木工事は、規模が大きくなればなるほど「規模メリット」でコスパが良くなりますが、県が積算する設計価格は、規模メリットを十分に反映しないため、規模が大きい工事ほど、設計価格(入札予定価格の根拠)と業者の想定する工事費と乖離するのです。

さらに、護岸工事は、コンクリートなど資材は大量に使うために高価格工事になりますが、工事そのものは単純で難易度が低いので、業者にとって、かなり美味しい仕事なのです。

ダンピング調査のための調査基準価格

さて、調査基準価格について書きます。

調査基準価格は「これ以上下回った価格の場合はダンピングの疑いがある」として調査対象となる基準の価格です。調査対象となったにもかかわらず、調査資料を提出しない場合には、その業者の入札は無効となります。調査をしても実際にダンピング認定されることなど稀ですが、調査対象となった場合には、仮に契約しても、専任技術者の追加配備を求められるなど、条件が厳しくなりますので、ほとんどの業者は、無効を選択します。

調査基準価格の具体的な計算式(兵庫県の場合)は、
直接工事費×0.97+共通仮設費×0.9+現場管理費×0.9+一般管理費×0.68
ですが、この工事の場合は、0.908でした。

つまり、役所の設計した予定価格の90.8%以上でないとダンピング調査対象となってしまうのです。

しかし、直接工事費が0.97、つまり、県の定めた予定価格を3%下回るとダンピングの疑いあり、って厳格すぎませんか?

しかも、この調査基準価格は「ダンピング対策の強化」として、どんどん引き上げられる傾向にあります。

調査基準価格の計算式につき、最近の諸経費動向調査の結果に基づき、企業として継続するために必要な経費の対象を考慮した結果、一般管理費等についてその参入率を10分の5.5から10分の6.8に引き上げる見直しが行われました。

ダンピング対策の更なる徹底に向けた低入札価格調査基準及び最低制限価格の見直し等について(令和4年3月9日)

そもそも、技術力も評価される総合評価方式なのに、「安かろう悪かろう」のダンピング対策って、おかしくないですか?技術力も含めて総合評価しているのではないのですか?

調査基準価格って、必要でしょうか?

もし、調査基準価格がなかったなら、この工事で無効になった3業者も有効な入札となっていましたし、調査基準価格ぴったりの3業者も、もっと低い価格で入札していた可能性があり、「くじ引き」なんかではなく、正しく自由競争がおこなわれていたのです。
そのようなことが全国でおこなわれれば、財政支出額は、ぐっと抑えられるのです。

ただ、役所の担当者にすれば、落札価格が低いと「せっかく予算消化が進んだと思ったのに、また遠のいた」となります。コストを下げようという動機が働きにくいのです。

護岸工事のように、業者にとって美味しい工事は、規模は大きいけど単純な設計なため、金額の予測がわりと容易です。ですから、調査基準価格が90%のときは、業者は、その90%を予測してピッタリになるような金額で応札してきます。調査基準価格が80%のときは、業者は、その80%を予測してピッタリになるような金額で応札してきます。

これは、標準的な仕様の工事の場合で、特殊性が強くなると、こうはなりません。

技術社会貢献評価数値

総合評価は、入札への応札金額と技術社会貢献評価数値の総計で落札業者が決まる仕組みです。

上で、「人気のある工事は下限ピッタリで応札金額が揃いがち」と書きましたが、技術社会貢献評価数値でも、同じように揃いがちなのです。工事参加資格を満たすレベルの業者は、どの項目でも満点を取るのが常だからです。上限で揃いがちです。一つ、具体的にみてみます。

兵庫県の場合に、技術社会貢献評価数値の具体的な項目は次のとおりです。

参考(技術・社会貢献評価数値)

兵庫県「技術・社会貢献評価数値に関する要件等について」から、入札における技術・社会貢献評価数値の項目を掲げます。

【技術評価数値】
1 ISO9001認証取得 (最大16点)
2 CPDS、CPD(継続学習制度)単位取得者在籍(最大6点)
3 建設キャリアアップシステム(CCUS)への事業者登録(最大6点)
4 さわやかな県土づくり賞受賞(最大16点)
5 人間サイズのまちづくり賞受賞 (最大8点)
6 兵庫県優秀施工者賞受賞・(最大4点)
7 兵庫県若手優秀施工者賞受賞・ (最大2点)
8 ひょうごの土木技術活用システム等登録 (最大6点)
9 技術提案 (最大48点)
10 建設労働災害防止活動(最大14点)
11 工事成績 (最大120点)

【社会貢献評価数値】
1 障害者雇用(最大192点)
2 ユニバーサル社会づくりへの参画 (最大16点)
3 ISO14001又はエコアクション21認証取得(最大16点)
4 建設雇用改善優良事業所兵庫県知事表彰(最大8点)
5 兵庫県納税功労者表彰(最大8点)
6 県内新規中小企業者 (最大4点)
7 男女共同参画社会づくり協定締結(最大8点)
8 子育て応援協定締結 (最大8点)
9 社会貢献活動等
(1) 県と災害応急対策業務に関する協定等締結(最大12点)
(2) 協定等に基づく要請による出動(最大16点)
(3) 県の条例、県との協定等に基づいた「県が関係する地域づくり活動」への主体的
な参加(最大8点)
(4) 県が管理する道路、河川等の公共施設への愛護活動(最大6点)
(5) 県の関係事業に対する支援(最大6点)
(6) 就業体験事業等への協力(最大8点)
(7) 若年技術者の新規採用(最大30点)
(8) 地域安全まちづくり活動(最大6点)
(9) 刑務所出所者等の雇用(最大16点)
(10) 建設業暴力追放活動(最16点)

この要件については、リンク先に、具体的な説明があるので読んでいただければわかりますが、何かと突っ込みどころがあります(話が逸れるので突っ込みませんが)。

ともかく、多くの業者が同じ点を取ることが多く、差が付きません。

結局はくじ引き(人気のある工事の場合)

そんなこんなで、技術社会貢献評価数値でも差が付かないことも多く、この事例のように複数の落札業者が横一線に並び「くじ引き」で契約業者が決まるケースも出てくるようになってしまうのです。

できるだけわかりやすいように、かなり端折って簡潔に書きましたが、それでも、ややこしかったですね。

ただ、一方で、業者に不人気な工事もあります。例えば、溜池改修工事のように、労力ばかりかかる工事です。そういう工事は、業者が参加せずに入札不調になったり、落札金額が高めになったりします。土木工事と言っても千差万別なのです。

地域で護送船団方式

繰り返して書きますが、入札制度の根幹はどこの自治体も同じですが、細部は様々です。運用も様々です。また、同じ自治体でも、工事種類によって様々です。ただ、共通しているのは、最先端の技術を必要としない、あまり技術力に差が出ない工事において、(もちろん合法的に)護送船団方式のところが多いということです。

入札は、役所が発注する元請け業者を選定する仕組みですが、一定規模の土木工事になると、受注企業(元請)は一次下請業者、二次下請業者、などと、作業ごとの多くの専門業者とチームで工事を進めます。

A業者、B業者、C業者が、入札で競争していたとしても、どこが落札しようが、下請業者はD作業はE業者、F作業はG業者で決まり、というような例は多いです。
また、A業者が落札したときは、B業者、C業者が下請に回り、B業者が落札したときは、A業者、C業者が下請に回る、という例もあります。

労働者や機材を遊ばせておくのは無駄ですので、どの業者が、どの工事の、どの役割を担うのかは違えども、結局、皆で、地域の工事を担っています。もっとも典型的な護送船団方式です。

総合評価方式にしろ、そのほかの仕組みにしろ、単純な価格競争に比べて、時代の進歩にあわせて、制度は進歩していきます。でも、どんな最新の制度に改善しても、おおもとが変わらなければ、運用面により、旧態依然とした状態に戻ってしまうのです。

そして、制度が改正される度に、業者も行政も手間が増大します。これだったら、昔ながらの価格競争のほうが事務コストが低いだけいいです。

工事入札の仕組みの中で、象徴的に、特に改善すべきところを一つだけあげるとしたら「分割発注」をやめることだと考えます。これだけでも、かなり変わります。

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