最近、京都新聞社に所蔵する記者が、記者らが個人加盟する労働組合「関西新聞合同ユニオン」を通して、大株主の元相談役に長年支払った報酬など総額約19億円が違法支出に当たるとして、京都地検に対して会社法違反(利益供与)の疑いで告発しました。
大株主の「白石家」と経営陣との間に密約があり、白石家が会社経営に口出ししない代わりに、勤務実態がないにもかかわらず、巨額報酬を得ていた(私邸の管理費も肩代わりしていた)、ということです。
株主側が訴えられるという興味深い案件ですが、そういえば、新聞社って、上場もしていないし、経営スタイルが不透明な感じがします。そこで、新聞社の代表格である朝日新聞社を事例にみてみようと思い立ちました。
企業としての朝日新聞社
朝日新聞社はメディアコンテンツ事業(従業員5,852人)の12,025百万円の赤字を、不動産事業(従業員962人)の5,254百万円で埋め合わせている、実態は不動産会社です(その他事業も含めて差し引き7,031百万円の赤字)。
朝日新聞の決算書(2021年3月期)を見ると(EDINETで検索)、資本金が650百万円なのに対し、利益剰余金296,560百万円。資産には、現預金92,826百万円、投資有価証券209,854百万円など、ご自身が批判している内部留保が盛り沢山です。
と、従業員については、平均年間給与が、11,649,647円。さらに、新聞記者の必要経費は何でもありで、給与を遥かに超える収入になります。
朝日新聞社の株主構成
さて、朝日新聞社の株主構成です。
朝日新聞自身の最大の株主が、朝日新聞者従業員持株会で25.63%の株を持っています。
従業員が豊かになる仕組みの、従業員にとって理想的な社会主義的企業のような気がしてきました。
朝日新聞者従業員持株会に、続く株主を見ていきましょう。
株主の二番手が、公益財団法人香雪美術館(朝日新聞社の創業者村山龍平が収集した美術品を所蔵)21.02%というところです。これについては、下記リンク先にあるように朝日新聞関係者が理事を占めており、三番手、テレビ朝日ホールディングス(朝日新聞社が24.73%株式所有)の11.88%を合わせると過半数を超えます。
公益財団法人香雪美術館の株の経緯については、創業家の村山恭平氏が次のように批判しています。
日刊新聞紙法があります。たとえば朝日新聞社はこれに基づく定款で、株主の資格を「事業関係者」に限っています。しかも、社員以外の「事業関係者」の認定は原則的に取締役会がすることになっています。つまり、経営陣が好き勝手に株主を選べる各新聞社は、会社法上の特権階級なのです。 (略)
さらに、新聞社が他社と株式の持ち合いをすることなど、立法時にすら想定外だったでしょう。脱法行為の温床そのものです。(略)
これに、公益法人を組み合わせれば、もっと「洗練」された手口もできます。日本中に、経営不振の地方紙は山ほどあるのですから、安く買収して自分たちの「株式持ち合い」に組み込み、一部の株式を支配下の公益法人に寄贈してしまえばいいのです。たったこれだけのことで、持ち合いの強度が上がり外部からの手出しは難しくなります。 経営者が将来の院政を施くなどには最適な方法で、あらゆる業種で使えます。こういうのが横行すれば、朝日新聞社が悪しき前例になるのは目に見えてます。
理事9名のうち6名が朝日系メディア企業の出身です。(略)
理事の中には、美術の専門家とお呼びできるような方は1名もおられません。顔ぶれだけ見れば、まるで持ち株会社の役員名簿です。 結論を言います。資本の面でも人事の面でも、香雪美術館は朝日新聞社・テレビ朝日・朝日放送の3社間の持ち合いネットワークの中心にあり、3社の幹部や元幹部が乗り込んできて理事会を支配している、との嫌疑を払拭し切れない状況なのです。(略)
日刊新聞紙法や公益法人法を悪用した脱法行為が、村山龍平の雅号「香雪」を名乗る組織で行われることや、そうした嫌疑をうけることを、村山家としては容認できません。
創業家より:朝日新聞社さん。脱法ガバナンスは止めて下さい — 村山 恭平
(上場企業じゃないので)自由競争が働いているのであれば、別に外部からとやかくいうことではありません。と、言いたいところですが、税制上の優遇措置がある公益財団法人には、公益財団法人の運営が、特定の団体や勢力の利益に偏るおそれがなく、不特定かつ多数の者の利益のために適正かつ公正に行われることが求められています。
また、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」により、財団法人にとって、「他の団体の意思決定に関与することができる株式その他の財産を保有していない」ことは公益認定基準です。正直、香雪美術館の場合は、形式的にはセーフでも、法の趣旨としてはアウトだと思います。「物言わぬ株主」を生み出すために、公益法人制度が使われるなんて、法の想定外だったのです。
公益法人制度を悪用しているのが明らかなのに、法の隙間だからいいじゃないか、なのでしょうか。
上で出てくる「日刊新聞紙法」ですが、
日刊新聞紙法は、正式名称を「日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する法律」と言い、4条しかなく、全文を一分で読み終わる短い法律です。
日刊新聞紙法が適用される新聞社は、株式を自由に売買することはできません。株主が経営者を選ぶのではなく、経営者が株主を選んでいます。
これについては、浜田聡参議院議員が、廃止の改正案を検討しているとのことです。
この法律は短過ぎて「残すべき良い箇所」が、全くないため、この改正案への態度で、全国会議員が、既得権擁護派かどうか、真の姿が露わになると期待します。
形式的には違法ではありませんが、公益法人を株式持ち合いネットワークの中心において外部チェックが働かないようにするなど、法が想定していなかった仕組みで、どうかと思います。
朝日新聞社は、これだけ社会的に大きな影響力を持っているのに、一般的な上場企業と比べると、経営実態に関して情報公開されている部分が、あまりにも少ないです。ただ、その少ない中でも、かなり問題ありです。
電波利権と電波オークション
さらに良くないのは、本来、チェックしあうべきな「新聞」と「テレビ」が、同一株式持ち合いネットワークの中にあって、お互いを擁護し合っていることです。テレビ局と新聞社が、系列化されているのは、日本独特の特徴で、これは大問題です。
マスコミの役割が社会をチェックすることなら、マスコミ同士もチェックし合うべきです。まず、自らが範を垂れるべきでしょう。
特に、電波利権で守られていることはよくないです。
デジタル化が進むことで、社会の至るところで電波需要が増加し、周波数が逼迫されています。このままでは、電波が枯渇します。電波の最も良い部分(470~710メガヘルツ。ただし、1割も使われていない。)をテレビが独占しています。しかし、テレビ局が国に払う電波利用料は、携帯電話会社に比べて圧倒的に安く設定されています。公共性と言いながらバラエティーが多く、テレビ局社員は高給取りです。
NTTドコモ | 18,408百万 |
ソフトバンク | 15,011百万 |
KDDI | 11,468百万 |
日本テレビ | 655百万 |
TBSテレビ | 636百万 |
フジテレビジョン | 633百万 |
テレビ朝日 | 639百万 |
電波は国民の財産です。森友学園の土地取得については、随意契約であることを、あれだけ批判したテレビ局が、公共の電波については、随意契約で激安で権利を得ています。ちなみに、OECD35カ国のうち電波オークションを実施していないのは日本だけで、オークションを実施している国では電波利用料は数千億円レベルです。
電波オークションをやらない理由はありません。
ところが、これについて、日本新聞協会が、電波オークション反対の意見書を総務省に出しています。株式を持ち合っているテレビ局と新聞社が、お互いを擁護し合っているのは醜いです。
周波数オークションなど過当な価格競争を引き起こす可能性のある制度が放送用帯域に適用されれば、小規模な放送事業者が資金不足から応札できず、結果として地方における情報発信の担い手が減少することにもなりかねないと考える。 放送の根幹をなす「多元性・多様性・地域性」の原則を損なうものであり、結果として憲法が 保障する国民の「知る権利」をも損なうことにつながる。
総務省「デジタル変革時代の電波政策懇談会 報告書(案)」に対する意見(日本新聞協会)
ツッコミどころ満載でどうなんだろうという文章です。それでは、ツッコんでいきます。
「小規模な事業者が応札できず」ですが、土木の公共工事の入札とか参考にすれば、その地域の地元業者に対応する事例や方法はいくらでもあります。
「情報発信の担い手が減少」ですが、YouTubeをみればわかるように、情報発信するものは、いくらでもいます。そもそも、情報発信にテレビ電波を使う必要がありません。さらに、現在、テレビ局が放送している情報発信の中身は、バラエティーが大半です。
「放送の根幹をなす「多元性・多様性・地域性」の原則を損なう」ですが、電波を独占している現状のほうが、損なっているのでは。このテレビの周波数は現状は1割も使われていないので、オークションが実施されると起こることは、チャンネル数が激増するという方向だと考えられます。批判がずれています。
「知る権利を損なう」ですが、別にテレビに頼らなくても「知る」方法はいくらでもあります。電波を独占しないでください。憲法を持ち出すまでもありません。
テレビ局にとって大切なのはコンテンツであり、電波か?有線か?なんてことは、重要ではなくなってきているのですが?
電波の 経済的価値を重視する政策への転換に対しては、これまでも各方面から懸念の声が上がってい る。
総務省「デジタル変革時代の電波政策懇談会 報告書(案)」に対する意見(日本新聞協会)
「各方面」って、どこ?
明らかな論点ずらしです。あらゆる物と人が、ネットで結ばれる時代に、このままでは電波が枯渇するのは時間の問題だから、テレビなどは有線の方向へ、電波は携帯事業者などへ、ということが本来の趣旨です。
もう、ツッコミは十分でしょうか。
まとめると、新聞社とテレビ局は、複雑な形で固く既得利権を守り合っています。こういう企業がメディアを牛耳り、国民に講釈を垂れているのは、よくないです。
役所に取り込まれる新聞社
消費者離れが進むので、役所依存で生き残ろうとする、既得利権業界の象徴です。
新聞って、どうみても、オワコンです。国民の新聞離れが進む一方で、役所依存がどんどん強まっています。
役所側も、「消費税軽減税率」という餌を与えて飼い慣らしているので、新聞が消費税批判をすることは、ほとんどありません。
学校図書館への新聞配備
平成27年6月の公職選挙法等の改正による選挙権年齢の18歳以上への引下げや令和4年度からの民法に規定する成年年齢の18歳への引下げに伴い、児童生徒が主体的に主権者として必要な資質・能力を身につけることが一層重要になっており、発達段階や地域の実情に応じた、学校図書館への新聞の複数紙配備(公立小学校等:1校あたり2紙、公立中学校等:1校あたり3紙、公立高等学校等:1校あたり5紙を目安)を図る。
第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」
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