今回は、グローバリズムのメリット・デメリットについて。
「グローバリズムvs反グローバリズム」について書こうと思って書き始めましたが、対立軸にもなっていないことがわかりました。そこで、分けて投稿することにします。
思想?実益?
グローバリズムに反対する人を見ていると、「グローバリズムって、ウォール街的な新自由主義の価値観で世界の一体化を推し進めようという恐ろしい思想だから反対!」というスタンスです。そのため、いわゆる新自由主義に反発する左翼だけではなく、「主権国家が、ないがしろにされる」と反対する右翼も、真逆の立場から反グローバリズムを主張しています(左翼と右翼は、そもそも似ていますが)。
一方、グローバリズム賛成の人は、実務的に考えている人がほとんどです。感情的な観念重視の反グローバリズムの人たちとは、このズレが、噛み合いません。
例えば、起業して、うまくいったら全国展開して、さらにうまくいったら世界に出ていきます。そこまで、イメージできると、願うことは、バリアフリーな世界共通市場を求め、そのために各国に自由貿易や資本の自由化の障害となる規制を緩和することです。目の前にある障害を除去したいだけです。
筆者の朝食は、ご飯と味噌汁が必須なので、これがマクドナルドに置き換わるとしたら、大反対です。「強制がなくても、味覚や嗜好から、グローバリズムは侵食する」と言われれば、心が揺れます。
でも、正直なところ、グローバリズムに、過剰に「世界政府を目指す」のような思想性をみるのは、どうかと思います。例えば、規制緩和のうち、外国からの輸入に関係する規制緩和なんて一部に過ぎないのに、規制緩和全般に反対していたり、無意味に「原理主義化」していませんか?
貨幣間の違い?
あるいは、政府の通貨発行権を軽視する「商品貨幣論」の立場からは世界共通市場につながるグローバリズム推進が、政府の通貨発行権を重視する「国定信用貨幣論」の立場からは、反グローバリズムが導かれる、と言われることもあります。これも、過剰反応な気がします。グローバリズムって何か、はっきりしないので、掴みどころがないです。
そこで、まず前半で、日本政府(経済産業省)の捉える(現象としての)グローバリゼーションの定義を、後半で、それにもとづいたメリット(デメリット)を描こうかと思います。
グローバリゼーションの過去・現在・未来(「通商白書2020」から)
グローバリゼーションとグローバリズム。まず、経済産業省が、どのように捉えているのかから見ていきます。
経済産業省の「通商白書2020」から。
グローバリゼーションは、人・物・資金・アイデアが国境を越えて移動・流通(交流)することにより、技術革新、新興国の成長、中間層の拡大、貧困の削減といった付加価値を生み出し、世界経済の発展の大きな原動力となってきた
「通商白書2020;第3章 目指すべき社会を実現するための世界と我が国の方向性」
グローバリゼーション以前の時代においては、(略)生産地と消費地は近接したものであった。つまり、距離が制約となり、物やアイデア・人の交流は主に地域内で完結していた。
グローバリゼーションは、この制約を克服するものと考えることができる。制約は、物を動かすコストだけではなく、アイデアを動かすコスト、人を動かすコストの三つがあり、それぞれが物・アイデア・人の交流の障害となっていた。 この三つの制約を克服する過程がグローバリゼーションの歴史であり、その制約を克服する技術の進歩がアンバンドリングを促してきた。
「通商白書2020;第2章 グローバリゼーションの過去・現在・未来」
「アンバンドリング」とは「分ける」ということ。技術が「分離」を可能にした、という意味です。グローバリゼーションとは、技術革新によって離れていた地域がつながり、生産地と消費地が分離、生産者の役割が分離、等々という現象と捉えているようです。では、反グローバリズムとは、その技術進歩の成り行きに抗うこと、をいうのでしょうか?
以下、少しだけ、「通商白書2020」をコピペをさせていただきます
第1のアンバンドリング(1820年~1990年)
産業革命を発端とした輸送革命によりモノの移動コストが低下し、国境を越えて生産地と消費地が分離されたことを指す。この結果、比較優位に基づく国際分業が進展。
「先進国と更新国の格差拡大がー!」とか言っている人は、ここで止まっている感じですね。
第2のアンバンドリング(1990年~2015年)
1990年頃のICT(情報通信)革命を背景に、アイデア(技術・データ等)の移動コストが低下し、生産プロセスが分離されたことを指す。この結果、部品の国際貿易が拡大し、グローバル・サプライチェーンが発展
コロナ禍前の、筆者の現状認識は、このあたりです。
第3のアンバンドリング(2015年~)
2015年頃よりデジタル技術の進展が加速したことを背景に、国境を越えたバーチャルな人の移動が可能となり、個人単位での「タスク」の分離が可能に。世界規模でのバーチャルワークが実現しつつある。
よく見る近未来像ですね。コロナ禍で、ネット会議とか、急速に、ここまで進んでいるような感じがあります。
グローバリゼーションのアップグレード
「通商白書2020」では、「自由貿易=善」「保護貿易=悪」は大前提としたうえで「パンデミックは世界規模の課題解決における国際協調の重要性を示すもの。足元の危機克服、自国優先的傾向の固定化の抑止、世界規模の課題解決に向けて、国際協調を更に強化していくべき。」と、グローバリゼーションのアップグレードを進めることを訴えています。
「通商白書2021」から、
経済産業省の捉え方の是非は別にして、
自由貿易を前提とし、グローバリゼーションを不可避の現象と捉えて、どのように対応していくかと考えています。グローバリズムvs反グローバリズム、という選択肢を考慮すらしていません。
異なる資本主義の対立
もっとも、中国依存はまずいです。下記の図は、WTO の報告書「Global Value Chain Development Report 2019」で示された、世界の財・サービス全体の付加価値貿易ネットワークです。
日本は 2000 年に世界の付加価値貿易ネットワークのハブの一角でした。でも、2017 年には日本はハブではなく、中国の周辺になってしまっています。この傾向はまずいです。
だって、中国は、異なる資本主義の国ですから。
ブランコ・ミラノヴィッチによると、今後の世界は、欧米日の「リベラル能⼒資本主義」と中国型 「政治的資本主義(⼀党体制による⻑期⽀配。テクノクラートへの権⼒の集中。法の⽀配の⽋如。」の競争になるということです。
反グローバリズムの主張には、アメリカの衰退(=中国の衰退)をグローバリズムの衰退とする論もあります。
覇権国のリーダーシップがなければ、国際的な「公共財」の供給が不足し、国際市場経済の秩序を維持できないのです。つまり、自由主義経済による国際秩序の基礎には、地政学的な下部構造があるということ。言い換えれば、グローバル化は自然現象などではなく、グローバル覇権国家が自由主義的な経済秩序を構築することを志向した結果なのだということです。
「「コロナ禍」でさらに緊張が高まる、日本を取り巻く国際政治の“残酷な真実”」中野剛志
この辺りは、反グローバリズムを取り上げるときに考えます。
経済グローバリズムのメリット
次に、一般的に、経済グローバリズムのメリットと言われるものを、ピックアップしていきます。
技術の進歩の恩恵を世界中が享受する
新しい技術が世界に広がり、それを活用した商品やビジネスが生まれます。商圏も広がります。一方で、競争が激しくなり、ぬるま湯で安穏としていた業界は厳しくなります。
世界標準化とは、画一化というデメリットにも繋がりますが、そのことで競争の基盤が生まれます。賃金の安い地域や国に生産工場を移すことでコストを低く製造することができるようになります。
多国籍企業が有利になりますので、現地化がどれだけ進むかが、メリットデメリットに大きく影響します。
世界標準化により、国際分業が進むことで、効率が高まる
より安い賃金を求めて新興国に生産拠点が移ることで、そこで新たな雇用が生まれます。雇用が生まれればより多くの方が所得を得ることになるため、その国全体の経済が潤うようになります。逆に、生産拠点が出ていった国では、産業空洞化が進み失業が生まれます。
世界中から安い製品が流入すれば、それまで国境で守られていた生産者は打撃を受けますが、それらを購入する消費者にはメリットが生まれます。
世界全体として豊かになる
「グローバリズムによって、格差が広がる」という主張がありますが、不正確です。正しくは「グローバリズムによって、国内の格差が広がる」です。発展途上国の労働者も先進国の消費者も潤いますが、先進国の高い賃金をもらっていた労働者は打撃を受けます。グローバリズムは、世界全体では格差を縮小します。これについては、以前にも書きましたので、繰り返しません。
「グローバリズムによって、格差が広がる」のような批判は、事実を黙殺した印象操作です。
国際的な相互依存が戦争を防ぐ
グローバリズムに反発して、世界中の国々が、保護貿易を採用したらどうなるでしょうか?それは、歴史に事例があります。
第二次世界大戦の歴史的教訓から書きます。1920年代までは、世界の主流は自由貿易でした。
しかし、1929年10月、ニューヨーク株式市場で株価が大暴落します。そして、影響は世界中に波及していきました。アメリカがまず、自国産業を守るために輸入品に高い保護関税をかけはじめました。モノが輸出できなくなった各国は、金本位制を抜け、為替ダンピング競争を始めます。
こうして他国の通貨が信用できなくなった国が取る行動は、保護貿易主義に基づく、排他的ブロック経済を作ることです。
この背景には「自由貿易が庶民の暮らしを貧しくした」という反グローバリズムの主張が力を得て、各国政府を動かしていったことがあります。
イギリスやフランスは、本国と植民地や自治領を囲い込む自給自足経済で対応しましたが、これは資源を持つ国だからできたことです。
イギリスやフランスのように植民地を領有している国と違い、ドイツや日本、イタリアといった資源を持たない国はブロック経済に阻まれて、国際貿易ができずに経済的に苦しむことになりました。
そこで、これらの国は軍事力を使って領土を拡大し資源を獲得することで、この難局を乗り切ろうとします。植民地を得てブロック経済圏をつくることで自給自足を目指そうとしたのです。
持てる国は現状維持を願い、持たざる国は現状破壊を願う。この対立が第二次世界大戦へと発展しました。
持つ国も持たざる国も、国益を最優先させることが、短期的には効果を得たものの、長期的には大きな代償を払うこととなりました。貧しい国が国益を追求することは許されますが、豊かな国が国益を最優先すれば貧しい国の不満は大きくなります。
さらに、第一次世界大戦に話を遡れば、アメリカが連合国側に立って参戦した理由の一つとして、英仏から確実に貸付金を回収するため、と言われています。開戦から3年、アメリカが参戦する直前(1917年度)のアメリカの対イギリス・フランス貸付額は 約22.5億ドル。対ドイツ融資は2,700万ドル。対イギリス・フランス融資額は対ドイツ融資額の83倍にもなっていました。現実には、自立自給よりも経済相互依存のほうが、安全保障の備えになっています。
まとめ
グローバリズムのメリット・デメリットを書きました。まとめは、反グローバリズムについて書いた後とします。
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