日本人家計の預貯金の1割で、外国人投資家の株を全て奪い返せる

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いや、別に奪い返さなくていいんですが、次のようなことを言ってる人が多いもので

 近年、上場企業の外国人株主比率が増えている。日本企業の利益が外国人投資家に流れるのは、腹立たしい。法人税を増税して、外国人投資家への配当を減らすべきである。

実際には、外国人投資家が日本市場に関心を持ってくれることは、良いことなのですが、今回は、これを考えていきます。

法人税増税が外国人投資家へ与える影響

外国人投資家の実際の保有状況

外国法人等が増えていることは確かですね。

でも、繰り返しますが、外国人投資家が日本市場に関心を持ってくれるのは良いことです。

そもそも、配当性向は低い。

その配当ですが

日本企業の時価総額が高い順では、

  • 1位のトヨタの配当性向は、29.8 %で、残り内部留保70.2%。
  • 2位のキーエンスは、配当27.3%、残り内部留保72.7%。
  • 3位のソニーは、配当5.8%、残り内部留保95.2%。

です(以前も掲載しましたが、最新に時点修正されていますので、企業名、数字が違います)。実際には、利益のうち配当に回るのは、一部にすぎないので、外国人投資家に儲けさせるのは腹立たしい、というのは、あまり当たらないです。

ただ、問題は金額(割合)の大小ではない、と思う人もいると思います。なので、配当性向は無視して続けます。

法人税率が上がると、日本企業が買収されるリスクが増える

説明すると長くなるので、結論だけ書きますが、株価は税引後利益に比例します。従って、

法人税が増税されれば、税引後利益が減り、株価が下がり、外国人投資家は、同じ金額を投資しても、その企業全体のより多くの株を入手できます。もちろん、それ以前から持っていた株式の評価額は下がりますが、それ以上に投資機会を与えるだけです。

さらに、株式投資課税を強化なんてしたら、日本人にしか適用されないから、ますます外国人投資家を有利にするだけです。

つまり、

「法人税を増税すれば、外国人投資家への配当が減らせる」は、短期的には、そうかもしれませんが、

長期的には「法人税を増税すれば、(仮に業績に変化がなくても)外国企業が日本企業を買収しやすくなる」となります(実際には、単純には、そのようにはならないと思いますが)。

日本人の投資家が少なすぎるのが問題

ただ、外国人が、日本に投資することは、決して悪いことではありません。

ほとんどの発展途上国は、先進国の投資を呼び込もうと必死です。例えば。ASEAN諸国は外国に投資してもらって工業化に成功しましたが、フィリピンは外国投資が少なく工業化がうまくいっていません。

実際に、自分が起業家だと考えてみてください。日本人でも外国人でも、自分の起業に投資してくれるなんて、飛び上がるほど嬉しくありませんか?投資は、雇用を産み、消費を産み、経済を発展させます。投資する側と、投資される側は、Win Winなのです。

けれど、外国人は日本企業に魅力を感じて投資してくれるのに、肝心の日本人自体が、そうではありません。

株主の役割

そもそも、「株主」って何でしょうか?

株主には、どういう役割があるのでしょうか?それは、株主のいない自営業者の場合と比べてみればわかります。

事業をしていると、どんなに頑張っても、赤字になってしまうことはあります。そんなとき、自営業者は、自らの財産を減らします。

でも、会社の社員(経営者&従業員)は、会社が赤字になっても給料が貰えます。「昨年度は赤字だったから、今年度は給料はなし。従業員の皆さんの財産から赤字を補填してもらうから、皆さんの財産を会社口座に振り込むように」なんてことにはなりません。代わりに、株主が、財産を減らしているからです(正確には、株価は現在利益ではなく将来利益の反映なので複雑ですが)。

株主がリスクを肩代わりしてくれているから、会社の社員(経営者&従業員)は、安心して仕事ができるのです。

投資家が、損をするリスクをとって株を持ってくれるから、企業は新しい分野にチャレンジできて、成長しているのです。その結果、社会が変革されていくのです。もし、外国人投資家が日本企業の株を持つことが気に入らないのなら、日本人自身が、株をどんどん持てばいいのではないでしょうか?日本人家計が持つ預金現金は、1,948兆円(後述)もあるのです(富豪は、資産運用を法人化していますので、この大半は庶民です)。

投資するための資金は、家計に十分にあるのだが

日銀の家計の統計です。株式について、個人は、リーマンショックの下落時に下値で買い越したほかは、売り続けているようです。特にアベノミクスの株価上昇時には初期に大きく売っています。

一方、現金・預金は、リーマンショック前後から、コンスタントに増え続けています。2020年末には、1,948兆円もあります。国民一人当たり約1500万円もあります。ほとんど利息がつかないのに。この1割を株式投資に向けるだけで、外国人投資家の株を全て奪い返せるのです(奪い返す必要は全くありませんが)。

ちなみに、「外国人投資家に、日本企業の利益を持っていかれる」と反対する人に限って、日本人に株式投資を促す制度づくりに反対するのです。不思議です。

おそらく、根本に、経済を「ゼロサムゲーム」と考えるのか、「プラスサムゲーム」と考えるのか、の違いがいあるかと思います。ゼロサムと考えるなら、外国人投資家が日本市場にやってきたら「富を奪われる」と思うでしょう。しかし、「プラスサム」と考えるなら、外国人投資家が日本市場に加わることで、さらに経済が活性化すると歓迎します。

企業の役割と、役所の役割

役所と、企業の大きな違いの一つがここです。役所は、「株主」に相当する「リスクを引き受ける人」がいないので、極端にリスクを恐れて、責任を回避するための事なかれ主義、前例主義組織になってしまう傾向があります。

「国家は、不確実性を許容できるから、国家は企業よりも失敗を恐れず研究開発等できるのだ」という意見があります。基礎研究に関しては、一理あります。

 でも、基礎研究などを除いて、実際には、役所の本質は、失敗を極度に回避する事なかれ主義です。

役所は、企業の生産活動に対して、必要以上に関わるべきではありません。

1980年代。日本の半導体業界は世界を席巻していました。ところが、通産省(現在の経産省)が、「日本の一人勝ちは良くない」と、日本企業に対して、韓国企業等への技術移転を強要しました。その結果、現在では、日本の半導体製造は壊滅、韓国企業は「我が世の春」となっています。日本の半導体企業は多くの従業員がリストラされましたが、通産省では誰も責任を取っていません。

生産活動とは、基本的にリスクとリターンであり、誰も責任を取らない型の組織が、生産活動に口を挟んではいけないのです。

役所にとって、企業の株主に相当するのが「議員」です。

でも、株主は、企業が損失を出したとき、自分の財産を失うことで責任を取りますが、議員にとって役所の財産は自分の財産ではありません。

企業の全体の利益は、株主の利益に直結します。ですから、株主は、企業の全体の利益を重視します。

でも、議員はそうではありません。全体の利益は、議員の個人的利益とはなりません。そのため、無責任な議員は、支持者のための予算分捕り合戦に夢中で、役所はATM代わりと化しています。

MMTは貨幣理論としては(おそらく)正しいと思うのですが、利益誘導型議員にとっても都合の良い理論であり、無責任タイプの困った議員が続々とMMTへの支持表明をしているのが現状です。

いつの時代もリスクにチャレンジするのは少数派で、多数派はそれが成功するのをみてから支持します。もちろん、企業と役所は役割が違います。役所は、あまりリスクを取る必要はありません。

企業は、リスクをとって試行錯誤しながら、生産活動を通じて社会を良い方向に変革していく「攻め」の役割。

役所は、変革に伴う痛みなどから、国民を「守る」役割です。

どちらも大切で、バランスが大切です。もし、社会の変革に伴って、国民に痛みが生じているのなら、それは企業のせいではなく、役所が必要な対策を取らなかったせいなのです。

逆に、本来、企業が担うべきことを役所に求めて「公務員を増やし、財政支出を増やせば解決する」なんて主張は、完全に間違いです。財政支出は、国の供給能力の制約があり、その供給能力を拡大するのは、ほとんどが企業です。

上場企業の多くは、(大抵は5年単位の)中期設備投資・研究開発計画を、株主に示しており、税引後利益が予想以上に増えれば、前倒しされます。つまり、法人税減税は、国の供給能力の拡大を加速し、国の供給能力の拡大によって、困っている国民を助ける財政支出を増やすことができるのです(MMT的には)。

一方、役所は、役所がするべきことをしっかりするのが役所の役割なのです。

「大企業の利益は、一部の者の利益になっている」と主張される人は、「日本人の庶民の家計には、現金・預金に1,948兆円(後述)もあるのに、それを企業活動に反映し、社会のために活用しようとしていない」ことに対して、問題意識を持ってください。

 リスクをとってくれる人には、リターンで報いるのが当然です。リターンが欲しければ、リスクを取るべきです。自らリスクを取ろうとしない一方で、リターンを得た人を非難するのは身勝手です。

日本の歪(いびつ)なところは、外国人投資家にあるのではなく、日本人が株を買わず、現金・預金に1,948兆円(後述)も寝かせていることにあるのです。

株式投資家は、楽して、儲けているという批判

では、なぜ、日本人は株を買わないのでしょう。次のような声を、よく聞きませんか?

株式投資家は、楽して、儲けて、税が20%なんて、けしからん。

というものです。

おかしくないですか?

楽して、儲かるのなら、(老後資金に不安を抱えている人は多いのに)なぜ、皆、株式投資をしないのでしょうか?生活ギリギリの収入しかない人なら、わかります。でも、「楽して、儲かる」のなら、一定資産、例えば、銀行口座に当面の生活費以上の預金がある人は、皆、貯金をおろして株式投資するはずです。

つまり、「楽して、儲かる」が、事実でないと皆、知っているのです。

また、1万人アンケートを見てください。

投資をしない理由として「まとまった資金がない」をあげた人は、大きく減少しています。その代わりの回答が

  • 資金が減るのが嫌だから → 儲かるとは限らない
  • いろいろ勉強しなければならないと思うから  → 楽ではない

「楽して、儲かる」が、嘘だと、皆、知っているのです。

「企業研究や会計の勉強が大変で、それでも損をすることがある」のに「楽して、儲かる」なんて言われたら、やってられないですよね(企業研究や会計もせず、株を買って、運が良くて儲かる人もいますが)。

だんだんと日本人の意識も変わってきた

けれど、そう言う日本人の投資観も、少しずつ変わってきたようです。フィデリティの「2020年ビジネスパーソン1万人アンケート」を見ると、投資に対する明るいイメージが随分と増加。

2020年ビジネスパーソン1万人アンケート

しかも、実際に投資をしている人の割合も、全体で3割ほど増加。特に、若い年齢層に顕著です。この5年間で、10%も増えたのは、結構、凄くないですか?

2020年ビジネスパーソン1万人アンケート

次の表は、東証が発表している個人株主数の推移です。1人で2企業の株を持っていたら2人とカウントしています。なので、全体数にはあまり意味がないと思いますが、増加の傾向は明らかです。注意書きにあるとおり、条件も変化していますが、2010年以降は統計条件は同じなのに、2割以上増えています。表は用意できませんでしたが、若い年代の投資が増えて、1人あたり金額はずいぶん減っています。

 

とは言え、貯蓄は高齢者に偏り気味

株式投資は、数年レベルでは変動が大きいので、数十年の長期投資期間が望ましいです。そういう意味で、若い世代の株式投資余力が必要です。

下記は、厚生労働省の「令和元年国民生活基礎調査(厚生労働省)」です。総数を1万としたときの、世帯主年代別の貯金額の分布です。上の調査とは、1年ずれています。やはり、という結果ですが、貯金は高齢者に傾いています。でも、30代、40代でも、平均貯蓄額は500万円を超えています。

令和元年国民生活基礎調査(厚生労働省)

日本人の投資家が少なすぎるのは、国策のせい

「日本人は貯蓄好き」という思い込みがあるかもしれませんが、それは事実ではありません。昭和の国策で、日本人は貯蓄に励むようになっただけです。日本人が株式投資に消極的なのも、国民性に原因があるのではなく、国の政策に原因があると思います。たまに、「国は株式投資を優遇しすぎる」という主張がありますが、実態は真逆です。

前回に書いた投稿も、どうぞ。

まとめ

  • 企業の利益は、顧客良し、従業員良し、株主良し、皆を豊かにするために用いられるべきだが、そのうち株主への利益還元を不当に批判するのは間違い。
  • 株主に外国人投資家が多いことをもって、日本企業の利益が外国に流れることを憂うなら、日本人投資家を増やすことを考えるべき。日本人の庶民の家計には、現金・預金に1,948兆円もあり、その1割が株式投資に向かうだけで、外国人投資家の保有株を全て買い戻せる額になる。
  • 株式投資課税を強化しても、日本人にしか適用されないから、ますます外国人投資家を有利にするだけ。

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