政府は、どんな支援をしたの?~100兆円を超えるお金が動いた~
政府がどれだけ大規模な支援をしたのか、まずは見ていきましょう。これを理解することが、今の経済問題を考えるスタートラインになります。
国の財布は大丈夫?歴史的な規模の支出
政府は、コロナ対策のために何度も「補正予算」という追加の予算を組みました。特に2020年度には、国の支出の総額が約176兆円にもなりました。そのお金の大部分は、「国債」という国の借金でまかなわれ、その割合は64.1%という異常な高さでした。コロナ対策関連の事業は全部で213件もあり、使われたお金の合計は約106兆円にものぼります。
さらに、いつでもお金を使えるように「予備費」という形で、2023年度にも4兆円が用意されるなど、特別な支出はずっと続きました。コロナが落ち着いた後も、今度は物価高対策などでお金が使われ、国の支出は高いままです。
会社やお店への支援:「ゼロゼロ融資」と「持続化給付金」
ビジネスをしている人たちへの支援で中心となったのが、この二つです。
持続化給付金
これは、売上が前の年より半分以下に減ってしまった会社や個人事業主の人に、法人は最大200万円、個人は最大100万円を配る制度でした。特徴は、ネットで簡単に申請できて、もらったお金の使い道を報告しなくてもよかったことです。たくさんの事業者が助かりましたが、そのせいで無駄遣いや不正受給の問題も起きました。2020年度だけで、約5.5兆円が配られました。
ゼロゼロ融資
これが今回の対策の目玉でした。「ゼロゼロ」とは「実質無利子・無担保」という意味です。つまり、会社がお金を借りるときに、最初の3年間は利子を払わなくてよく、もし会社が返せなくなっても国が100%保証してくれるので、担保(借金のカタになるもの)もいらない、という夢のようなローンでした。条件も「売上が5%減っただけ」でOKなど、とてもゆるかったため、約234万件、合計で約42兆円ものお金が貸し出されました。
働く人を守る支援:仕事を失わないために
働く人たちのために行われたのが、雇用調整助成金という制度の特別ルールです。これは、会社が従業員をクビにせず、「休業」という形でお休みさせた場合に、国がその間の給料の一部を会社に払ってあげる制度です。コロナ禍では、その条件がとてもゆるくなり、助成金の割合も、中小企業なら最大で100%になりました。パートやアルバイトの人も対象になり、何度も利用しやすくなったため、2022年末までに6兆円以上が使われました。
対策の良かった点:経済の崩壊を食い止めた
手厚い支援にはマイナス面もありますが、まずは「良かった点」をきちんと見てみましょう。それは、パンデミックが始まったばかりの頃に、経済が完全に壊れてしまうのを防いだことです。この成功があったからこそ、今の日本経済があります。
会社の倒産が減った?政策が作った穏やかな日々
普通、景気が悪くなると会社の倒産は増えます。でも、コロナ禍の日本では、逆に倒産が減りました。特に2021年には、会社の倒産件数が50年以上ぶりの低いレベルにまでなりました。これは、政府が「ゼロゼロ融資」などで大量にお金を流し込み、会社がお金に困らないようにしたからです。つまり、市場の自然な競争が、政策によって一時的にストップさせられた状態だったのです。
失業者が増えなかった!世界でも珍しい安定
倒産と同じように、失業率も驚くほど低いままでした。世界中の多くの国で失業者が急増する中、日本の失業率は3%前後で安定していました。これは、前の章で説明した「雇用調整助成金」のおかげです。この助成金がなければ、失業者は100万人以上増えていたかもしれない、という計算もあります。
しかし、これには裏がありました。多くの会社が、仕事が減っているのに従業員を解雇せず、社内に抱え込んでいたのです。これを「雇用保蔵(こようほぞう)」と言います。一番多い時で、440万人もの人がこの状態だったと推計されています。
つまり、政府の支援は、経済が急に壊れるのを防ぐという大切な役割を果たしました。しかしその一方で、問題も生まれていました。特に、たくさんの人を失業から救った「雇用調整助成金」は、本来ならもっと成長する分野に移るべきだった人たちを、元気のない会社に留まらせてしまいました。
これは、経済全体が新しく生まれ変わるチャンスを逃してしまった、ということでもあります。低い失業率という素晴らしい成果は、経済の活力を少し犠牲にして得られたものだったのです。
会社に現れた反動:借金漬けと「ゾンビ企業」問題
政府の支援がもたらした一時的な平和の裏で、会社には深刻な問題がたまっていました。特に、手厚すぎた資金支援は、本来なら市場から消えるはずだった元気のない会社を生き延びさせ、経済全体の元気を奪う「ゾンビ企業」を大量に生み出してしまいました。
「ゾンビ企業」って何?どれくらいいるの?
「ゾンビ企業」とは、簡単に言うと「事業で稼いだ利益では借金の利子さえ払えず、新しい借金や支援がないと生きていけない会社」のことです 。
信用調査会社の帝国データバンクによると、このゾンビ企業はコロナ禍で急激に増え、2022年度にはなんと25万社以上、日本の会社全体の約17%にもなりました 。最近の調査では少し減っていますが、これは景気が良くなったからというより、後で説明する「倒産の増加」によって、ついに市場から退場する会社が増え始めたからです 。
なぜゾンビ企業が増えたの?犯人はゼロゼロ融資?
ゾンビ企業が増えた一番の原因は、「ゼロゼロ融資」の仕組みにありました。この融資は、もし会社が返せなくなっても国が100%保証してくれたので、貸す側の銀行にとっては全くリスクがありませんでした。そのため、銀行は「この会社、本当に返せるかな?」と厳しくチェックするよりも、政府の言う通りに、とにかくたくさんの会社にお金を貸すことを優先しました。
その結果、もともと経営が危なかった会社にも大量のお金が流れ込み、「借りすぎ」と「貸しすぎ」の状態が生まれました 。多くの会社は、新しいビジネスに投資するためではなく、ただ会社を潰さないためだけに借金を増やしたのです。その結果、2023年末には、会社の4社に1社が「借金が多すぎる」と感じるようになっていました 。
ゾンビ企業がいると、何が問題なの?
ゾンビ企業の存在は、ただその会社が成長しない、というだけではありません。もっと深刻なのは、元気な会社の邪魔をして、経済全体の足を引っ張ることです。
ある調査によると、元気な会社は、ゾンビ企業のせいで迷惑していると感じています。一番の理由は、ゾンビ企業がお金を稼ぐために「安すぎる値段で仕事を受けてしまう」からです 。これでは、元気な会社も適正な値段で仕事ができなくなり、業界全体が儲からなくなってしまいます。
さらに、ゾンビ企業は必要以上にたくさんの従業員を抱え込んでいるため、成長している会社が「新しい人が欲しい」と思っても、なかなか見つからないという問題も起きています 。
このように、お金や人といった大切な資源が、元気のないゾンビ企業に縛り付けられてしまうと、日本経済が新しく生まれ変わるのを邪魔してしまいます。これは、政府が目指す「成長する経済」とは全く逆の状況です。会社を助けるためだったゼロゼロ融資が、皮肉にも、日本経済の体力を奪う結果になってしまったのです。
支援の終わりと倒産の波
国の手厚い支援によって保たれていた平和な時間は、支援が終わるとともに終わりを告げました。コロナ禍で先送りされてきた問題が一気に表面化し、会社の倒産が急に増えるという、目に見える形での「反動」が日本経済を襲っています。
借金返済のスタート
経済が少しずつ元に戻るにつれて、政府は特別な支援策を減らしていきました。そして、決定的な転機が訪れたのが、「ゼロゼロ融資」の返済が本格的に始まったことです。多くの会社にとって、利子を払わなくてもよかった3年間が終わり、2023年の夏頃から、借りたお金(元本)の返済が始まりました。
これまで国の支援に頼ってなんとか生き延びてきた会社は、いよいよ自力でお金を稼いで借金を返さなければならない、という現実に直面しました。業績が回復していない会社にとっては、まさに崖っぷちに立たされたような状況です。
倒産が急増!データが示す現実
倒産件数のデータは、この「反動」の厳しさをはっきりと示しています。2021年には歴史的に少なかった倒産件数が、2022年から増え始め、2023年には前の年より35%以上も多い8,690件に達しました。この増え方は、バブルが崩壊した頃を超えるほどの勢いです 。2024年に入ってもこの流れは止まらず、毎月800件以上の会社が倒産しており、これは10年以上なかったことです 。
この倒産急増は、明らかに支援が終わったことと関係しています。特に、ゼロゼロ融資を利用していた会社の倒産が目立って増えています。2023年には、ゼロゼロ融資を利用した後に倒産した会社が631件もあり、前の年から約4割も増えました 。2024年に入っても、その数は高いままです 。これは、支援がなければやっていけなかった会社が、支援がなくなったことで、ついに市場から退場させられていることを意味します。
どんな会社が、なぜ倒産しているの?
倒産の波は、主に支援の対象だった中小企業に集中しています 。倒産する会社のほとんど(約98%)が中小企業やとても小さな会社です 。
倒産が増えている業種を見ると、危機の性質が変わってきたことが分かります。コロナ禍で一番大変だった飲食業やホテルなどの宿泊業は、今では経済が動き出し、外国人観光客も戻ってきたため、倒産はむしろ減っています 。
一方で、今、倒産が急増しているのは、建設業や製造業、卸売・小売業などです 。これらの業種は、材料の値段が上がったり、円安で輸入コストが高くなったり、深刻な人手不足に陥ったりと、コロナ後に現れた新しい問題に対応できず、利益が出せなくなって倒産しているのです 。
つまり、今の倒産増加は、新しい経済危機が来たからではなく、コロナ対策によって「先送り」されてきた問題が、今になって一気に片付けられている「遅れてきた清算」なのです。政策は倒産を「防いだ」のではなく、「先延ばしにした」だけでした。支援という麻酔が切れた今、経営体力のない会社が、避けられない淘汰の波にのまれているのです。
結論と未来への提言:低金利時代の終わりと日本の針路
私たちの経済ミステリーの物語は、今、大きな転換点を迎えています。20年以上にわたって続けられてきた「特効薬」の投与が、ついに終わりを告げたのです。
一つの時代の終わりと「審判の時」
2024年3月、日本銀行はマイナス金利政策の解除を決定し、17年ぶりに金利の引き上げに踏み切りました。これは、日本の異常な超低金利時代が終わりを告げた歴史的な出来事です。
この変化は、ゾンビ企業にとって「審判の時」が来たことを意味します。金利が少しでも上昇すれば、彼らが支払うべき借金の利息は増加します。もはや、わずかな利益で生き延びることは許されません 。今後、企業の倒産や事業再編は増加する可能性が高いでしょう。最近の調査でゾンビ企業の数が減少に転じたのは、この「淘汰」のプロセスがすでに始まっている兆候なのかもしれません。
痛みを伴うが、必要な移行
この変化を、単なる悲劇として捉えるべきではありません。むしろ、それは痛みを伴うかもしれないが、日本経済がより健康な状態へと移行するために不可欠なプロセスです。ゾンビ企業の終焉は嘆くべきことではなく、市場が再び正常に機能し始めた証しなのです 。
未来への針路
この大きな転換期において、日本政府、日本社会は、次の2つのことに取り組むことが必要です。
新陳代謝の促進
第一に、「新陳代謝を受け入れ、促進すること」です。政府は、この自然な淘汰のプロセスに逆らうのではなく、むしろ円滑に進むように手助けするべきです。具体的には、ゾンビ企業の退出によって職を失った人々が、新しいスキルを身につけて成長産業へとスムーズに移動できるよう、強力な再教育プログラムや転職支援策を整備することが重要です。同時に、新しい挑戦をする起業家を支援し、イノベーションが生まれやすい環境を整える必要があります 。
強力なセーフティネットの構築
第二に、「強力なセーフティネットを構築すること」です。目指すべきは、「非生産的な企業」ではなく「困難に直面した人々」を支える社会です。企業の退出によって影響を受ける労働者や地域社会に対して、手厚い失業保険や生活支援を提供し、移行期の痛みを和らげることが不可欠です 。
日本経済を長年押し下げてきた「見えざる重り」を取り除くプロセスは、決して平坦な道ではないでしょう。しかし、この困難な移行を成功させることこそが、日本が真の持続的な成長を達成し、生産性を高め、そして多くの人々が待ち望んできた本格的な賃金上昇を実現するための唯一の道なのです。日本の未来は、この歴史的な転換期をいかに賢明に乗り越えるかにかかっています。
最後に
Gemini(生成AI)の回答はいかがだったでしょうか。
ちなみに、筆者も似たようなテーマで記事を書いていますので、ぜひ、そちらも読んでみてください。
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