高速道路に必要なのは、民営化、それとも無料化?

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現行民営化のデメリット

前ページに書いたように、現行の「ローリスク・ローリターンPPP」方式は、それなりに実情にあった仕組みで、筆者は評価しています。ですが、難点があります。肥大化に歯止めをかける仕組みでないことです。

これからも建設が進むかも

一般国道・県道市道(無料)は、議会で必要性や予算のチェックを受け、建設されます。まがりなりにも民意のチェックを受けます。
しかし、高速道路は、民間高速道路会社の原案が国の審議会で審議・決定され、民間高速道路会社が建設します。いくら、不採算が見込まれても、その工事経費は全額を機構(最終的に国)に負担してもらえるし、不採算道路を運営しろと言われても道路賃貸料は通行料金に比例します。民間高速道路会社にとっては、コスパが低くなったところで、ほとんど、痛くないのです。

そして、民意のチェックを受けるのは「道路整備特別措置法」改正のタイミングだけです。

日本の法律では道路は原則無料です。もし、例外的に通行料金を取る場合には「道路整備特別措置法」で、期限付で認められなければなりません。そして、同法は今年5月に改正され、令和47年までの期限が、令和97年までに延長されました。

債務返済機構は、これまでは「令和47年までに予想される通行料金累計額」の範囲内で道路を造っていましたが、この改正で「97年までに予想される累計額」の範囲へと増額されました。

R.3年の(維持修繕費など経費を除いた後の)収入は、1.6兆円。これを50年分ですから、50年の延長で見込まれる収入増加は、(物価変動を無視すると)80兆円です。一方、機構が保有する高速道路の再調達原価(機構設立時に保有道路を改めて建設した場合を想定して計算した価額に、その後の取得処分価格を加算減額したもの)は、70兆811億円です。つまり、真っ新の用地取得から始めて、もう一度、全ての高速道路を作り直しても、お釣りが来ます。

どれだけ、甘い査定やねん!

令和97年って、ドローンによる移動が普及していて、自動車なんて過去の遺物になっている可能性があるね。

地方の高速道路は、今でもガラガラなのに、なぜ、4車線化を進めなければならないんだろうと思います。

ただ、地方に行けば感じますが、一般道(無料)も渋滞がなくスピードが出せる一方で、地方の暫定2車線高速道路は追い越しもできないため、低速車が前を走ると、速度が低速になり、一般道とあまり所要時間に差が出ないのです。通行料金を取っている以上、無料道路と差別化するために車線を増やさなければならないんじゃないかと、有料道路ゆえの動機があるんじゃないかと勘ぐります。

路線数自体は、9割が完成済みですが、4車線化や自動走行など道路の進化に応じて、これからも延々と工事は続くでしょう。

このままであれば、令和97年期限の見直しまで、民意チェックの機会はありません。つまり、いちいち議会でチェックされる一般国道・県道市道(無料)と比べても、高速道路「民営化」は「不採算道路を延々と造り続ける仕組み」に対して、無力なのです。

これでは、議会のチェックを受ける一般国道・県道市道(無料)の仕組みのほうが、ずっといいのではないでしょうか。

自由競争ではなく、政治的に決まる料金

もう一つ、有料化のデメリットを書きます。

民意チェックが、ほとんどされない一方で、料金は自由競争ではなく、国の審議会に業界団体(例えば、公益社団法人全日本トラック協会)からの要望が出され、政治的に決まります。

「よしよし、要望はわかった。その代わり、次の選挙では集票を頼むよ」となりませんか?

政治家も役所も、影響力をキープしておくために、いつまでも有料化しておきたいと考えるのが普通ではありませんか?

増税には厳しい「減税派」の人たちも、通行料金増加に関しては寛容な人が多いです。

自動車重量税のような道路特定財源は、H.21に財務省によって一般財源化しました。国土交通省は、自分たちで差配できる財源を取り上げられてしまったのです。でも、高速道路の通行料金には「税」という名がついていないので、その心配がありません。国土交通省が、政府予算の制約を受けずに道路建設・管理をコントロールできる、こんなありがたい財源を、手放すでしょうか?

通行料徴収のコスト

さらに、有料化のデメリットを書きます。ETCです。

東名・名神・中央などのの高速道路では全ての料金所でETC無線通行またはETCカードでの支払いが可能となっています。しかし、それ以外の有料道路ではETCカードすら利用できないところが多いのです。次の記事によると、ETCを設置しない理由は、1レーン当たり1億7千万円の設置費がかかり、メンテナンス費用も高額なためだそうです。

ところで、ここ数年、普及が進んでいる次世代のETC2.0ですが、普及が進んでいる理由は簡単で、通行量の割引などがあるからです。
これって、利用者に歓迎されていますか?

 私は、ETC2.0装着車でロングドライブをするたびに、「このお知らせをなんとか止められないか」と真剣に思う。しかしいまのところ、止め方を見つけられていない。

 ETC2.0は、対応ナビを通じて、より詳細な交通情報を得られ、渋滞回避ルートも表示されるとなっているが、グーグルマップなどのスマホナビに比べたら、反応の速さ、案内の綿密さなど、あらゆる面で劣っている。

 ETC2.0には、全国のSAPAに存在する「ITSスポット」に停車してナビを操作すると、ETC2.0を通じて付近の観光情報などが閲覧できるというメリットもあるのだが、実際にこれを使ってみると、噴飯ものである。  内容は驚くほど貧しく、しかも通信速度が猛烈に遅い。スマホを使い慣れた者なら誰でも、開いた口がふさがらなくなる。」


“次世代”ETC2.0を取り巻く謎 利用者にメリットが薄いのになぜ普及?

ETCは、今後、高速道路を出て、民間駐車場など、まちなかでのETC利用へと利用を拡大していく予定だそうです。そのために、国土交通省は予算をつけています。

でも、有料道路でも設置コスト高のためにETCの利用が躊躇されているのに、街中でのETC利用なんて普及するんでしょうか?

わざわざ民間に使ってもらうように、国がお金を出してまで普及を進めていく必要があります?

もし、ETCが、高速道路の外で普及したとして、その利益によって通行料金が下がるとかするのでしょうか。いえいえ、ETC普及で、一番、得をするのは一般社団法人ITSサービス高度化機構です。

上図は、国土交通省道路局の予算資料から切り抜きました(同局は、個別事業の予算は公表していません)。

ETCを牛耳る一般社団法人ITSサービス高度化機構

ITSサービス高度化機構の理事長は、元・国土交通省道路局長の金井道夫氏で、ばりばりの天下り団体です。
この団体の前身は、10数年前に、天下り官僚の高額報酬とETC利権で話題となった「道路システム高度化推進機構」です。

この機構の主な事業は、

  1. ETCの無線通信での暗号化・復号化に必要な「鍵情報」を、ETCカードや車載器及び料金所設備に提供して鍵発行契約をおこなう「鍵情報事業」
  2. 車両情報を暗号化して車載器のセットアップ情報として提供する「車載器のセットアップ情報事業」

です。ETCが普及するに連動して、独占的に儲かる仕組みです。

数字で確認したいなあと思いましたが、
残念ながら、損益計算書は情報公開されていなかったため、収益や費用の状況がわかりませんでした。貸借対照表だけが公表されていました。

損益計算書が公開されていない時点で、ダメです。


正味財産(純資産)は、平成28年度末の114億円から、令和3年度末には161億円へ、5年で47億円の利益が出ています。ソフトウエアなどの固定資産を除いた内部留保(現金等価物)が134億円あるので、資本効率は悪いですが、濡れ手に粟の商売です。これを、民間企業ではない一般社団法人が商売しています。利益が出ても法人税は非課税となっているようです。そして、政府でもないために、情報公開度が低く、ブラックボックスです。社団法人なので株主がいません。

ETCの利益の一部は、この社団機構が独占的に得ることができるのに、国土交通省が予算をつけて普及を進めているのです。

筆者は、有料徴収のためにETCがあるのではなく、ETCのために有料徴収があるような気がしてきました。

仮に、この社団機構について改善したとしても、有料である限り、利権や徴収コストを減らすことはできても、無料化のようにゼロにはできません。

高速道路会社の料金収入に占める料金徴収費用の割合

中日本・東日本・西日本の3つの高速道路会社の有価証券報告書からR2,R3の料金収入に占める料金徴収費用の割合を計算してみました。次表のとおりですが、平均すれば料金収入の8.6%が料金徴収コストになっていました。これは、通行料が無料だったら発生しないわけで、筆者にはムダに思えるんです。

よく、「補助金・給付金」より「減税」が比べて優れているのは、利権や、ムダな中間経費が発生しないから、といわれます。

同じように、今の有料高速道路の仕組みから生じる利権や中間経費は、無料化によって消滅するのです。

無料化のメリット

無料の高速道路(新直轄方式)

ところで、同じ高規格幹線道路なのに、新直轄方式という初めから無料の道路が全国にあります。次の図の青い路線の部分です。

通行量が少ないので通行料金があまり見込めず、地方が負担することによって最初から無料になっているのです。あるいは、通行量も見込めるけれど、早く整備したいから地方がお金を出して新直轄方式を選択した場合もあります。

新直轄方式では自治体がお金を出すので、議会で真剣に議論されていたりします。これが本来の民意の反映ではないでしょうか。

ただ、上表のとおり、一般国道以上に、自治体の負担は少なくて済むんだけどね。

そして、その新直轄方式のおかげで、無料化には次のようなメリットがあることに気がつきました。

  1. 料金収受機能が不必要であることにより経費が削減される。
  2. 料金所建設が不要なため、簡素なインターチェンジ(IC)でいいので、IC建設に伴う費用が抑えられる。
  3. そのため、IC間の距離も有料道路に比べて、大幅に短距離にすることができている。有料道路のIC間の距離は8 – 20 km程度が普通がが、新直轄区間では平均して3 – 4 km程度で、地元民にとって使いやすくなっている(それと比べると、有料化道路は、地元にはあまり役の立たない道路になっている。)

筆者は、調べ始めた当初は「新直轄方式は、けしからん」と怒っていましたが、だんだんと、これが本来の姿じゃないかと思うようになりました。

高速道路無料の国との比較

筆者の準地元である尼崎南部の工業地帯では、夕方になると、たいてい、南から北へ向かう道路が物流車両で渋滞します。一方、最南部の湾岸高速(有料)は、その時間も空いています。渋滞時には、いったん、南へ向かい湾岸道路経由で迂回したほうが、ずっと早いです。もし、高速道路が無料なら、分散されて相当にスムーズになるでしょう。

高速道路が無料なら、運転手は高速道路と一般道路との比較で、その時の渋滞状況も見ながら最適な経路を選択します。しかし、高速道路に代金がかかることで、「不便だけど一般道路にしようかな」という選択をする運転手が出てきてしまいます。これは、社会全体にとって不経済です。

さて、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、これらの国は、高速道路(一般道路比)の交通量「分担率」は30%以上です。一方、日本は10%台です。

欧米では、自動車での移動距離が10Kmを超えると半数以上が高速道路を利用するのに対して、日本では100kmを超えて、はじめて半数以上が利用するようになります。

高速道路と一般道路は、VIP席と一般席のような違いではありません。高速道路が無料になっても、一般道路の通行者が一斉に高速道路に殺到するわけでもありません。高速道路は遠距離、一般道路は中短距離と目的に応じて使い分けるものです。遠距離を目指す車が、一般道路をタラタラ走られたら、社会に害です。

話は少しそれますが、ロンドンには渋滞税という税があります。渋滞を減らすために渋滞区間に税を課すというものですが、それが別の区間の渋滞を生んでいます。

地下鉄に乗れず、大きな荷物を抱えていたのでロンドンシティ空港からホテルまでの移動にウーバータクシーに乗った。運転手のポーランド出身の気のいいお兄さんに話を聞いてみた。

 「この道、いつもこんなに混むの?」「渋滞税適用区域を迂回するクルマが集中する道が決まっていて、そこはいつもひどい渋滞だ。ストライキのせいでイーストロンドン中心にいつもよりクルマが多い。

 Googleマップだとキングスクロスの交差点まで3キロ進むのに45分かかる、と出ているよ。渋滞税のせいで大渋滞して空気が汚染されるなんて、本当にバカげてる。金儲けのための仕組みだよ」と嘆いていた。

「交通マナーのいい旧車を大事するクルマ文化…英国を約4000km走ってわかった「日本が英国に見習うべきところ」」ベストカー

税にしろ、独占料金にしろ、市場均衡を歪める仕組みは、ろくなことにはなりません。

高速道路の最適解は?

現行制度は受益者負担の原則に反している

高速道路の受益者は誰か、を考えてみます。

まず、東名・名神・中央などの高速道路は既に償還が終わっており、これらの高速道路の利用者は、他の不採算道路の通行料金を支払わされていますが、これは受益者負担の原則に反するんじゃないでしょうか?受益者負担の原則というなら、すでに代金を払い終えている東名・名神・中央は、無料にするべきです。

その一方で、新直轄方式のように、初めから償還が無理と見込まれる道路は最初から無料になっています。これが社会的公正ですか。「全国料金プール制」になっていないし、単に「取れるところから取る」という税金の性質を表しているだけじゃないですか。

そう、受益者負担の原則といえば、かつて、ガソリン税や自動車重量税などは道路特定財源と呼ばれ、道路のためにだけ使われていました。

道路への公共投資は、S.40年に6,991億円、S.50年に29,550億円、S.60年に7兆1,874億円と増え続け、H.10年には15兆4,066億円でピークとなります。それに伴って、道路特定財源の税率も上がり続けます。そして、そこをピークに道路投資は減り始めます。そして、H.20年には7兆7,869億円と、ピーク時から半減しました。
ところが、それに合わせて道路特定財源の税率が下げられたわけではなく、H.21年には、道路以外の目的にも使うことができるように一般税にされてしまったのです。
わかるでしょうか。政府が「受益者負担の原則」を言うのは、歳入を増やしたいときだけなのです。

(今後、収支の余裕が拡大していく)高速道路の通行料金も、同じ道を辿るのではないでしょうか。

高速道路沿線活性化とかで、イカキングが建立される日がくるかもしれません。

政府は歳入が増えると、無駄遣いを始め、歳入が減ると、倹約を始めます。
高速道路を無料化しても増税されるわけではありません。道路整備計画が、よりシビアに吟味され、コスパが良くなるだけです。

そもそも、通行料で充当される債務は、かつての道路公団の、用地買収時の法外価格での大盤振る舞いの無駄遣いが膨れあがった後始末です。
無駄遣いの後始末は、無駄遣いを減らすことで解決しないと、財政支出拡大に歯止めが効かなくなります

「受益者負担の原則」の受益者って誰?

日本で最初に歩道ができたのは幕末の生麦事件(薩摩藩主の行列と、乗馬していた英国人の遭遇)がきっかけらしいです。

その後、日本で本格的に車道と歩道の分離が整備され始めたのは、自動車が本格的に普及し始めた昭和30年代のことです。そのことで、自動車の運転手は歩行者を気にせずにスピードが出せるようになり、法定速度も上がりました。

一方、高速道路の登場によって、自動車の運転手は信号待ちを気にせずにスピードが出せるようになり、法定速度も上がりました。

「車道と歩道の分離」と「高速車道と中低速車道の分離」の社会的意義は、ほとんど同じじゃないでしょうか。車道と歩道の分離は、歩行者にもメリットがあります。同じように、信号待ちの解消は、交差する双方にメリットがあります。立体化によって信号待ち解消の恩恵をうけているのは、高架の上も下も同じです。

高速道路ができたことで、一般道を走る自動車に大きなメリットが生まれました。もし、東京~神戸間の高速道路が全廃されたら、一般道は大渋滞になってしまいます。高速道路利用者だけが受益者ですか?

スピードが短縮される対価?

また、「高速道路はスピードが短縮されることへの対価だ」という意見があります。確かに、新幹線の場合なら、東京と大阪の間を2時間半で走る「高性能の列車」が提供されますので、わかります。でも、高速道路は、単に速度規制が緩和されるだけです。

もし、「信号待ちせずにスピードアップできるための代金」というなら、国道の信号横に架かる歩道橋にも課金すべきなのでしょうか?開かずの踏切を回避する地下道はどうでしょう?川があって、これまで迂回していた箇所に橋が架けられたら、どうですか。

「高速道路無料化なら、鉄道も無料化したらどうなんだ」とか言い出す人がいますが、道路の無償化に相当するのは、線路(レール)の無償利用化です。
無理に鉄道に例えようとするなら、高速バスが相当するかもしれません。もちろん、高速バスの無料化を提案しているわけではありません。

それでも、どこまでも受益者負担とかいうのなら、道路特定財源を復活させるのが、一番わかりやすいと思います。

EV車の普及につれて、ガソリン税は激減しますが。

全ての人がメリットを享受する総合道路体系

高速道路の整備は、全ての人がメリットを享受する総合道路体系の整備です。

実際、現代日本では、自分では自動車を運転しない人も含めて、全ての人が、高速道路の恩恵を受けています。今日、ネットで注文した商品も、原材料の輸入港から工場まで、工場から店舗まで、店舗から自宅まで、全て物流経費が加算されています。

日本の物づくりは、電気代や物流費用など、企業努力ではどうにもならないところでのハンディが大き過ぎます。

現代社会の高速道路は、市道や県道と同じ必需品です。有料化は、あらゆる商品の価格に上乗せされています。

ということで、高速道路建設は、皆に益が及ぶ総合的な道路体系整備の一環として政府が取り組むべきものであり、通行料金を有料化することで、市場均衡を歪めてはいけないと考えます。

結論として、高速道路の今後についての提案

以上、高速道路については、あまり考えたことがなかったので、少し調べたことを書いてみただけですが、まとめとして、提案を書いてみようかと思います。いくつかの木を見ただけで森を見ていないかもしれないので、あくまで現時点の意見です。

現行の上下分離方式の民営化の仕組みは、良いと思います。ただ、通行料徴収だけが反対です。

もし、受益者が高速道路の通行者だけなら、通行料金有料化でいいでしょう。しかし、受益者が自動車利用者全体(いや、国民全体)なら、そこに負担を求めるべきです。

今、稼働中または建設中の高速道路は、無料化でいいのではないでしょうか。

その方法については、幾つもの選択肢があるので、また別の機会にしますが、大切なのは、もっとも、国民へのサービスが向上し、コストが少なくなるようにすることです

民営化かどうか、無料か有料か、なんてことは、「方法」にすぎないのです。

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